闇に射す光

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 身体が弱く、余命が短かった母の言葉は、桜の心の中に大きく残っていた。 「失礼します。まだ仕事が残っておりますので」  静かに頭を下げると、桜はその場を後にした。そんな桜の態度が、さらに母娘を苛立たせていることは桜も知っていたが、それもどうでもよかった。  ここ篠宮家は上流階級の名家だ。しかし、桜の母が亡くなり、後妻に入った母子は桜を目の敵にしており、桜は毎日使用人のような生活を送っていた。 自分に与えられた小さな部屋、いや、物置とでも言った方がいいその場所で、髪を拭いて、三枚しかない質素な着物に着替える。長い真っ黒の髪、栄養不足が顕著に表れた生気のない顔。  それでも、こうして雨露をしのげる環境はありがたい。そう思いつつ、勝手口から桜は屋敷の外へと出た。
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