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そして今自分がいた屋敷を仰ぎ見る。父が自分の威厳を見せつけるために建てられた豪華な洋館。西洋建築の影響を受けた大きな窓や、二階部分にはバルコニーには、煉瓦や石材をふんだんに使用してある。
庭には桜。木々の枝はしなやかに伸び、薄紅色の花が重なり合うように咲き乱れている。
(母が好きだった桜。これだけは残っていてよかった)
桜の花に後ろ髪を引かれる気がしつつ、桜は街へと歩き始めた。
十五分ほど歩いたその場所は、どこか異国の風を漂わせながらも、まだまだ発展途上で明暗がはっきりとしている。
夕刻、街に漂う木漏れ日は柔らかく、建物の影が長く伸びる。桜の黒髪が風にそよぎ、着物の裾が足元で軽やかに揺れた。彼女は街道の喧騒を抜け、貧しい長屋の路地へと入っていく。
「桜さま、また来てくださったのですか…」
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