闇に射す光

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小さな声が、長屋の一角から聞こえた。老婦人が震える手を伸ばし、桜の姿を見上げた。その目には涙すら浮かんでいる。 「ええ、少しでもお役に立てればと思いまして」 桜は微笑みを浮かべ、静かに包みを手渡す。中には少しばかりの米と野菜が詰まっていた。老婦人の手に触れた瞬間、桜の心に暖かい感覚が広がる。偽善であり、こんなことをしても何の解決にもならない、そんなことは桜だって理解していた。   しかし、桜はそれをやめることなどできなかった。 風が少し強くなり桜の耳元でそよいだ時、遠くから不規則な足音が響いてきた。 桜は振り返り、路地の奥にぼんやりと立つ一人の青年の姿に気づく。着物の裾が汚れているが、凛とした佇まいが目に留まる。 「どうかされましたか?」
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