ある冬の日

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ある冬の日

あれは忘れもしない5年前のクッソ寒い冬の日の事。 仕事終わりに休憩室で携帯をチェックすると、珍しく冬弥(とうや)からの大量の着信が残っていた。 どうせろくな用事じゃないことくらい分かってはいるが、こいつの頼み事を俺は無視できない。 というか… 25にもなってもう何年も彼女なんていないし、むしろ女になんか興味のない変わり者の俺なんかとずっと友達でいてくれてる冬弥は、俺にとって唯一の理解者…ということだけでは片付けられない複雑な関係だと思っている。 「あ、もしもし冬弥?何?」 「おっ、良かったぁ春人(はると)!至急頼みがあんだよ」 「やっぱりな…そんなこったろうと思った。で?今日の頼みは何?俺仕事終わったばっかで疲れてんだけど…」 「あぁ…だよな。とりあえず俺ん家来て!話はそれから、な?」 またこれだ。 冬弥は要件を先に教えてはくれない… いいように使われてるんだろうけど、でも俺はそれを断れない。 「お前…そうやってまた俺をハメる気だろ…」 「やだぁ、やめてよハメるだなんてぇ…春人くんたらエッチなんだからぁ♡」 「はぁ!?おまっ…ちげぇよっ////」 「慌てちゃってぇ…かぁあいいんだから!」 「ばっ、ばっかじゃねぇのっ!?」 「まぁとにかく来てよ、だんご用意して待ってるからさ?」 「だんご…?それ、和み屋(なごみや)のだんごだよな?」 「おう、あたり前じゃんっ!じゃあ早くねぇ〜」 こんな調子で俺は冬弥の掌の上で上手いこと転がされながらも、長年一緒に過ごしている。 だからお互いのことはよく熟知しているわけで、俺の好きな物も嫌いな物も全部把握済みだ。 それが俺にとっては心地よくもあって、良いのか悪いのか分からないけど、ずっと離れられずにいるのだ。 はぁ…と深く溜息をつき店の外に出れば、今にも雪が降りそうなくらいに風が冷たくて急に行く気が失せてくる。 だが仕方ない、冬弥の頼みだ… ニット帽を深く被りマフラーで鼻まで隠れるくらいにぐるぐる巻きして気合いを入れ直し、商店街から少し離れた高台にある冬弥の実家であるお寺に向かって歩き出した。
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