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真相(冬弥)
真夜中の外は雪がチラつくほどに寒くて、こんな中上着も着ないでどこかほっつき歩くなんてとてもじゃないけど無理だ。
なんで直ぐに戻って来ないだよっ…
慌てて出てきたせいで自分も仕事着のスーツのままで、さすがに寒くて春人の上着を羽織ると、とりあえず春人の家まで走った。
俺ん家から一人暮らしの春人の家まではほんの数分で着くが、さすがに春人が家を出てからもう一時間は経っているだろう…
鍵が無い事に気が付いて、近くの実家に帰ってる可能性もあるよな?
そう思いながらも春人が借りてるアパートの階段を駆け上がると、玄関の前で丸くなり倒れてる春人がいた。
「春人っ!?春人っ!!」
「…ん…あ…とぉ…や…」
「メッチャ冷たいじゃんっ…何やってんだよこんなとこでっ…何で戻ってこねぇんだよっ!」
唇は青ざめ震える春人に着てた上着を脱いで被せると、その上から抱きしめた。
「もう疲れて…眠くて…動けなかった…」
「ばかっ!!こんなとこで寝たら死んじゃうだろっ!」
「ほっといてくれても良かったのに…」
「ほっとけるわけねぇだろっ…」
冷たくなった手を握りしめ背中を擦りながら、ポケットの鍵を取り出し春人を抱き上げると鍵を開け部屋に入った。
春人をソファーに座らせ直ぐに暖房をつけて、ケトルのお湯を沸かし寝室から毛布と布団を持ってきて春人にかけて、それでも尚ガクガクと震えの止まらない春人の手を握る。
「大丈夫か…?」
「寒い…」
「当たり前だろっ…こんなクソ寒いのに上着も着ないで1時間近くもさぁ…戻ってくりゃ良かっただろ?」
「そんな元気なかった…」
「はぁ…もう少しでお湯沸くから…」
もう、ばかばかばか…っ!
元気なくても戻ってくるくらい出来ただろ!?
本当に死んじゃったらどうするんだよ…っ。
「冬弥…ごめんね…」
「えっ、何で春人が謝んの…?」
「俺が…勝手にモヤモヤして…当たっただけだから…」
「あ、いや、俺こそ…ごめん。せっかく来てくれたのに…色々押し付けるだけ押し付けて出てっちゃって…」
「いいよ…別に…でも大変だった。もうどうしていいかわかんなくて…」
「ごめん…」
「けど…冬弥のお願いだからっ…頑張った…」
俺は別に無理して頑張ってもらおうなんて思ってないのに、なのに何でそんなに頑張るんだよ…
「なぁ、嫌だったら断れよ。嫌だったんだろ?昨日の事も…何で無視したんだよ…っ、起きてたんだろ!?」
「…っ、冬弥だって、何で…?何であんな事したんだよ!俺の事からかってっ…反応見て楽しんでただけだろっ!?」
「は?そんな訳ないだろっ!?あれはっ…」
今この状況においてつい出来心で…なんて言える訳もなく、勢いで否定したのにも関わらず言葉につまる…
「ほら…どうせふざけてたんだろっ…?俺のもんになれとか言っといてっ…ごめんなんてさぁ…めちゃくちゃじゃん…」
「それは…っ、悪い事しちゃったかな…と思って…」
「何それ…結局あの時と同じじゃん…」
「あの時って…?あの時って何だよ…っ」
見開いた春人の目に、みるみる内に涙が溜まっていく。
あの時って何だ!?
俺、前にもお前に嫌な思いさせたのか!?
「…っ、あぁ…そうだよな…忘れようって言ったの冬弥だもんな。忘れて当然だよな…俺だけ…ずっと…っ、バカみたいっ…グスッ」
「お、おい…何の話だよっ…」
「せっかく忘れたのに聞く?俺は…っ、忘れたくても忘れらんなかったのにっ…」
「だっ、だからなんの事だよっ!」
「お前がっ…!俺に突っ込んだ日の事だよっ…!」
ドキッと心臓が跳ねる。
ぎゅっと毛布を掴み震える春人の目は涙に濡れて、俺を睨みつけて離さない。
その日の事なら忘れるわけないじゃん。
俺はあの日からお前の事が気になって気になって仕方なくて、ふざけて抱きしめる度にドキドキして、お前に触れたくて一緒にいたくてアピールしてもはぐらかされて、昨日はもう我慢出来なかったんだ…
でもお前はそれを怒ってんだろ?
そんな目で睨まれたら、俺は結局謝る事しか出来ねぇんだよ…
「忘れるわけ…ねぇだろ…」
「じゃあ何でまたあんな事したんだよっ… ずっと…っ、必死で忘れようと思ってたのにっ…」
春人の目に溜った涙が、俯くと同時にポロポロ落ちた…
忘れたいくらいに酷い事を俺はしたんだ。
なのに…また思い出させた…
好かれてるなんて俺の勘違いでしか無かったんだ。
「ごめん…!本当に、悪かったよ…だからっ」
「また謝るの…?それでまた忘れろって言うつもり!?俺の気持ち知ってて…わざと好きとか言って振り回して、俺の事からかって遊んでんだったら…っ、もうこれ以俺に構うなよっ…」
毛布を被って泣き出した春人に、俺はもうどうしていいかわからなかった…
でもそれってどっち?
お前は俺の事許せないんじゃないのか?
それともやっぱり俺の事好きなの?
振り回されてんのはこっちの方だよ。
あぁ、やっぱりわかんねぇよ…
静まり返った部屋の中にケトルのお湯が湧いた音だけが響き渡り、俺はコーヒーついでに頭を整理すべく一旦キッチンへ向かった。
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