猫に導かれた出会い

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猫に導かれた出会い

鳴き声はベランダの方向から聞こえてくる。 「にゃー」 迷い猫でもいるのだろうか。 この物件はペット不可だったはず。 そーっとベランダを覗くが、なにもいない。 じっと耳をすませてみると、鳴き声は隣の部屋のベランダから聞こえてくる。 いずれにせよペット不可の物件に猫が迷い込んでしまっている。 危ない目に遭う前に、なんとかしてあげたい。 そう思い、ベランダの仕切り越しにお隣さんのベランダを覗くと、そこにいたのは金髪ハーフアップの青年と、小さな子猫だった。 どうやら猫はタライに入れられて青年にシャンプーされているようだ。 気持ちよさそうに「にゃー」と鳴いている猫をついじっくり観察してしまう。 可愛すぎる。 青年は私に気付かず、ひたすら猫をわしゃわしゃと洗っている。 (どうか、そのまま気づかないでいてくれ) そう念じていた矢先、履いているジャージのポケットに入っているスマホのバイブが鳴ってしまった。 青年は素早く顔を上げ、私の顔を見て固まっている。 そして、私も固まった。 その青年の顔が、今まで出会ったどの人間よりも美しかったからだ。
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