0人が本棚に入れています
本棚に追加
グラサンとハンチパーマ
二年生の時の担任も酷かったが、
三年生の時の担任もなかなかだった。
事なかれ主義の権化。
ついでに言えば表面しか見ず、贔屓横行、若干セクハラ気味、という認識だった。
あたしにとっては。
そして、イジメもなかなかだった。
ボス女子が、遊んであげる、と唇をひん曲げて言い放つと、手下共があたしをコートを着せずに真冬の中庭に引きずり出す。
その間に手下男子共が雪玉を握りしめた氷つぶてを作っている。
嗤いながらあたしにぶつける。
アソビ、だから、と。
机の上に手を広げさせ、尖った鉛筆やコンパスの針で指の間を突く。
失敗したら痛い。
仕方ないよね、失敗しちゃったんだから。
ほら、アソビだから。
指定カバンは布製だったので、雪や雨に濡れると男子は青に、女子は赤にプリントや教科書が染まる。
それが厭で、あたしは六年間ランドセルを背負った。
それも生意気に感じたのだろう、登下校の最中、腐りかけたリンゴをランドセルにぶつけてきたりしていた。
あたしは何をしたんだろう?
何が悪いんだろう?
何を直せばいいんだろう?
ずっとそう悩んだ。
だって、三年生の担任に相談したら、
「あの子たちはそんなことしないよ?何か悪いことをしておこらせたんじゃないのかい?」
と、こっちも見ないで言われたから。
だから、あたしが悪いんだろう。と。
休み時間は保健室に逃げ込む。
本を開く。
はてしない物語を。
あ、あたしが悪いんじゃない、イジメだコレ。
と気付いたのは
4年生の担任に会ってからだった。
パンチパーマにサングラスに白のランニングシャツで、
児童用の椅子の脚を頭の横で開くように持ち、筋トレしながら入ってきた180センチ越えの男性が、先生だとは多分誰も思わなかっただろう。
あたしも、最初、誰?と思ったから。
型破りで、時々校長室に呼ばれて怒られてたけど
あたしは初めて担任として信用できた。
誰とであっても、人、として向き合っている、と感じたから。
「信号無視してました~」
という、あたしに対しての偽情報をその先生にチクり、廊下で隠れてどんな叱られ方をするか楽しみにしているヤツらに気付いたとき、
うん、あたしがどうたらじゃない。アイツらはあたしを虐めて楽しんでるクズだ。なら、しらん。あたしも好きにする。
そう念った。
当然、先生も気付いていたはずだ。
チクりの時点で。
いや、もしかして、その前から。
今までの担任ならネチネチと説教したのだろうけど、その先生は白のチョークで黒板に三つ丸を書いて、それを楕円形で囲んだ。
「これ、なんだ?」
「…信号、…ですか?」
「そうだ。」
端っこの丸を青のチョークで塗りつぶす。
「これは?」
「青…です。」
「どうする?」
「…進みます。」
青を消して、もう反対を赤で塗る。
「これは?」
「赤です。」
「どうする?」
「止まります」
「よし、帰れ。」
「…。はい。さようなら。」
え?そんだけ?ちょっと… などわちゃわちゃ聞こえる廊下に、あたしは出た。
そして、言った。
「残念だったね。」
あたしが口が悪くなり、態度も悪くなり、
今みたいになる、まさに幕開けだった。
それもまた、別の話。
最初のコメントを投稿しよう!