運命の 一冊

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運命の 一冊

物語のなかの詩も諳んずることができるくらいになった頃。 あたしはだいぶわかってきた。 自分が視えているもの、聴こえてくるもの、感じるもの、匂い、空気感、色、圧。 普通、はわからないものなのだ、と。 あたしの気持ちは 現実よりも、より、物語に傾いた。 あたしがホントウだと想うモノは 普通は本当じゃない。 あたしにはホントでも 普通から見たら嘘つきで気持ち悪いヘンなヤツなんだ、と思い知った。 後になり、発達障害、という概念を識り、 フラッシュバックしたこの身を掻き毟りたくなるような辛さのまさに真っ只中にいる子どもに寄り添いたい、と考えるようになり 自分自身が真っ只中で悶えながら、綴るようになるなんて この時は知るよしも無い。 それはまた、別の話。 この世界で生きていきたくない、生きていけない、生きていっちゃいけないんだ、あたしなんて。 そう拗らせたあたしが唯一自分を曝け出し、乱暴で粗野な言動でも怖じ気づく事無く発揮できた仲間は あたしにとってまさに夢だった。 醒めて欲しくない、夢、だった。 でも、アイツらとの(とき)があたしがあたしであるそのものを創り上げたのは間違いない。 間違いないんだ。 それは、また、別の話。 たくさんの、別の物語につながるであろう 葉脈の、ひとつ。 そして、今。 あたしは綴る。 あたしの呟き。 あたしの慟哭。 あたしの嘆き。 あたしの叫び。 あたしの歓び。 あたしの愉しみ。 あたしの痛み。 あたしの思い。 あたしの想い。 あたしの念い。 あたしの想い出。 あたしの あたしである、たった今と  あたしが あたしになってきた、諸々を。 果てしなく、湧き出るこの物語は 収束などしないのだろう。 生きている限り物語は続く。 枝分かれして、その先でも。 袖触れあった、それだけでまた 新しく生まれていくのだ。 予想などつかない。 ついたら、愉しくないでしょう? 運命、なんて 決められてたまるか。 命を運び、 泥だらけに、擦り傷だらけになりながら 流れた血をみて、生きていることを再確認するんだ。 自分の命を自分で運ぶ。 いろんな人に助けられながら。 そして綴り足していくのだ。 あたしの運命の一冊は、 これから 自らで 綴り続けるのだ。
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