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喫茶店
バスチアンがあの本を手に入れる
というか、隠し持って行ってしまったあの古書店。
あたしにとってのその場所は、
その小さい町に十字街に昔からある喫茶店だった。
最初の頃のマンションとは名ばかりのアパートまで30分ほど歩く。
その、ちょうど中間辺りにある、その場所は
薄暗くて、温かいオレンジいろの間接照明が光を灯していて
珈琲の薫りをふわりと放っていた。
一目見たときから、あたしの中ではもう
あの古書店にしか見えなくて。
バスチアンの時みたいにあたしを助け出してくれないだろうか、なんて思いが脳裏を擦ったのは
致し方ないことだったと、今でも思う。
この辺りの小中学校は指定カバンだったから、赤いランドセルを背負った小さな女の子が毎日のように喫茶店の前で立ち尽くしていたら、それは気になるだろう。
当時のあたしは
そんなことを考えられないくらいには幼くて
追い詰められていた。
どれくらいそんな日が続いただろう。
その日。
飴色の扉が開いた。
黒縁眼鏡にベレー帽、珈琲の薫りを纏った無愛想な表情のおじさんが
藍染めの酒屋の前掛けをして立っていた。
「入れ」
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