この本読んで

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この本読んで

(さく)ちゃん! 咲ちゃん! 待ってよ、置いて行かないで!ー ーテディは必死に呼びかけましたが、パレードの行列を追いかけるのに夢中の咲ちゃんには、その声は届きませんでしたー 『Blossom! Darling! Don’t Leave Me Behind……Teddy Tries To Call As Hard As……』 「ふう」  花鈴(かりん)は最初の段落を打ち込んだパソコンの画面を見つめ息を吐いた。絵本『咲と迷子のテディ』それは花鈴が、英訳者として最初に関わる事になった本だった。  その本を訳さないかと言われた時、花鈴はおかしな気分になった。それは……。 「ねえ。おかあさん! このごほんよんで!」 「また『咲と迷子のテディ』? 昨日も読んだでしょう?」 「きょうもよんでほしいの! このほんカリンのごほんだから!!」  訳す為、その絵本に目を通すたびに、花鈴は昔のことを思い出していた。  確かに『咲と迷子のテディ』は兄姉のお下がりではない、花鈴に贈られた花鈴だけの絵本だった。それこそ暗記するほど読んでもらい、文字が読めるようになると自分でも熱心に読んだ。  だが、それも花鈴が小学校の……二年に上がるぐらいまでだった。その頃にはその絵本に対する興味は薄れ『咲と迷子のテディ』は花鈴の本棚に突っ込まれたまま、忘れられていた。
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