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しばらく彼女は来なかった。今日はバイトもなく、樹と空は店内、三人は外にいる。
「空」
「何?」
二人っきり、聞くなら今だ。この間から聞きたくて聞けずにいた。だけど、どうやったらさりげなく聞き出せる?
樹は額に手をやりながら空の前に置かれた椅子に座った。
「あのさあ」
「あの人のこと?」
「えっ?」
「だから、例の綺麗な人のことでしょ。最近来てないみたいだけど」
額に置いた手がせわしなく動く。
「何言ってんだよ、彼女は」
じっと空が俺を見ている。
「あの人、たぶんもう来ないと思うよ」
「えっ?」
「占いの結果、どうだったの? あの人の願いは叶う?」
「はあ? 占い? 俺のか?」
「そうだよ。どうだったの?」
想い人に気持ちは届くのか。そんな内容。
「対人運がいまいち」
そんな答えを聞いても彼女は平気そうにしてたけど。
「お前こそ、手相を見たんだろう。どうだったんだよ」
キツイ結果に来なくなったんじゃないのか。ちらりと樹を見た空は肩をすくめるようにした。
「障害を表すマークが出てた」
やっぱり、ことごとく悪い結果続きで嫌になったんだ。ため息をつく樹をちょっと見ただけで空は何も言わなかった。
あれから数日たったある日。今日は俺と湯野川がバイト。
「お疲れ、どっかで何か食って帰る?」
バイト先が近いので地下鉄の入り口近くで待ち合わせた。背の高い湯野川が「そうだね」と答えつつどこにしようかと辺りを見回した。あれっというように湯野川の動きが一瞬止まった。
「何? えっ?」
夜とは言え、店が立ち並ぶ通りは行きかう人も多い。その中に軽いウェーブヘアの後ろ姿と長い髪、綺麗な足首。
空と彼女だ。
追いかけようとする樹の腕を湯野川が掴んだ。
「どこ行くの」
「って、あれ、空と」
「そうだけど」
一瞬、樹は眉根を寄せた。
「湯野川、知ってたの?」
怪訝そうにうなづく湯野川を無視するように樹は人ごみの中に入って行った。
どんどんと進む二人。その後ろ姿を追いかけている、だけ。
声もかけず、まるでストーカーだよ。
何やってんだ、俺。
そう思った、その時、二人が立ち止まった。
何か話してる。
いつの間にかネオン街だ。看板が縦に並ぶビルの入り口の前で。空が彼女の手を取った。
本当に何やってんだよ、俺。
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