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他の占いをする彼女
「あれっ、あの人、昼に来てた彼女じゃないですか?」
喫茶店の座り心地のいいソファに座り込んで夕飯をかっ込んでいた圭吾が樹の背後を覗き見るように身体を斜めにした。つられて樹も後ろを振り返る。
喫茶店の道に面した窓から後ろ姿の湯野川が見えた。
テーブルを挟んだ前に、顔は湯野川に隠れて見えないが女性と、その横に立っている付添らしい女性。
彼女だ。
付き添っている女性が話題の的になっている彼女とわかる。
彼女は占ってもらっている女性と湯野川を交互に見ていたが、ふと、視線を左に動かした。
喫茶店の入り口ドアを挟んで右側と左側に占いテーブルを出している。
夕方からは湯野川が店前、向かって右側、そして、彼女が視線を動かした先には空が手相占いをしている、はずだ。
彼女がすっと身体の向きを変え、移動していくのが窓越しにコマ送りのように見える。
空の前、空が顔を上げたのがわかった。彼女が少し微笑んで椅子に座った。
「あちゃあ、空の前に座っちゃったね」
こそっと言う秀の声が耳に入る。
空の背中越しに揺れる彼女の長い髪が見え隠れする。クスクスと嬉しそうに笑ってる。
気がする。
立ちあがった彼女が何か一言二言笑顔で話しかけ、湯野川に見てもらっている女性のとこに戻って行った。
「綺麗な人だったでしょ」
圭吾が喫茶店内に入ってきた空に声をかける。
「ああ、そうだねえ」
返事にならない返事をした空はそそくさとトイレに向かって行った。
「あんまり綺麗でびっくりしたのかな」
「もしかして、タイプだったんですかね」
秀と圭吾がこそこそと言いあってるのを横目で見ながら、樹は頬杖をつき、ぼんやりしていた。
何この感じ。
別に彼女が誰に占ってもらおうがいいじゃないか。
そんなことわかってる。
ぽんっと肩に軽く手を置かれた。はっとして見ると、ドアに向かっていく空の後ろ姿。
いつの間にか、彼女も、湯野川に見てもらっていた女性もいなくなっていた。
帰ったのか。
今は誰も占いには来ていない。視線の中で、窓越しに湯野川が空の所に移動しているのが見えた。樹はふうっと息を吐き出すと椅子にもたれかかった。
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