彼女は……

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彼女は……

情けなくなって隠れていたビルにもたれかかった。 「樹、もしかして」 いつのまに追いかけて来ていたのか湯野川が樹の隠れているビルとビルの隙間に入り込んでいた。 「湯野川」 この状況、いくら気付かないタイプの湯野川だってわかるよな。そう思った樹が話そうとした瞬間、湯野川が、 「おーい、空~」 と、ビルの間から出て手をぶんぶんと振った。   はい? 何やってますか、湯野川君。 「おお~、どうしたの? バイト帰り?」 てとてとと空がやってきたがビルの間に挟まるようにして突っ立っている俺を見つけ「うおっ」と声にならない声を上げた。 ビビりすぎだよ。 「今、帰りだよ。空はもう夕飯食ったの? 食ってないんなら、三人で」 のほほんと言う湯野川に空は後ろを振り返り、またこっちを向いた。 「食べてないんだ。何か食いに行こう」 振りかえった先に彼女の姿はもうない。 「空、いいのか?」 ビルから這い出た樹は服の埃をはらった。 「何が?」 「デート中だったんじゃないの?」 湯野川が目を見開いて樹と空の顔を交互に見ている。 「ふ、二人とも、そういうことだったの? 空そうなの? いいの? あの人で」 「湯野川!?」 空がぎょっとした顔を湯野川に向ける。 「樹もそんな。いや、そうだよな、恋愛は自由だよ。例え親御さんが反対したって僕は味方だよ。空があの人と付き合うことで樹がつらい思いをするのは僕もつらいけど」 「湯野川ぁ」 樹は首を傾げながらも湯野川の熱い言葉に感動しそうになっていた。 「そうだ、圭吾が飲み会したがってたよ。樹もメンバーだからね。どんなタイプがいい? あっ、でも、さすがに女の子だからね。男性じゃないよ」 「湯野川?」「湯野川~」 樹と空の声が重なった。 「ちょっと待って、男性って何だよ。もちろん女性じゃないと」 「えっ、そうなの? 樹はてっきり、そうなのかと」 「何でだよ」 「だって、空の彼女って」 「彼女じゃない!」 勘弁してくれと言うように空が割って入ってきた。 「違うの?」 「違う!」 「彼女じゃないってどういうことだよ」 今度は樹が二人の間に入っていった。 「樹。彼女は彼女じゃないんだ」 「何言って」 「彼女じゃなくて、彼だよ。女性じゃなくて男性なの」 「えっ……」
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