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彼女の狙い
たぶん、あのあと、二人に引きずられるようにしてファミレスに入ったんだと思う。気付いたらソファに囲まれた四角いスペース、ファミレスならおなじみの四人掛けのソファに座っていた。
「樹、大丈夫か?」
やっと事態が飲み込めたらしい湯野川が心配そうに樹の顔を覗きこんだ。
「ああ、まあ」
樹は冷たい水をごくりと飲んだ。
「だけど、一体どういうことだったんだよ。それに彼女、あの人は占いに来なくなったのに、何で今日はお前といたわけ?」
「あの人の狙いは樹だったんだよ」
メニューを見ていた空は目も上げずに言った。
「ねらい?」
「そっ、樹をスカウトしにね」
そう言った空は注文を取りに来たウェイトレスさんににっこりとほほ笑むとミートスパを頼んだ。
「すかうと? スカウトって何の?」
「あの人の働いてるお店だよ」
「お店って、まさか」
「女性の姿の男性のお店だよ」
口をあんぐり開けてる樹に「だから言いたくなかったのに」と空はぶつぶつ言っている。
つまり、彼女、あの人、ややこしいな、彼女でいいか。
彼女の働いてるお店からいきなり何人も辞めて行った。どうやら他の店に引き抜かれたらしいのだが。
彼女も同じように店を替わらないかと誘われたが、義理堅く熱い心の男らしい一面がそれを許さなかったらしい。たとえママと二人になろうとも店を守ると決めた彼女。
聞くにつれ、湯野川タイプだよなあ、二人は親友になれんじゃないのか。
そこでスカウトを始めたのだが。
「で、俺?」
「そうだよ。彼女に連れられてきた人を湯野川が占ったよね。あの人がママなんだって」
「歳はいってるけど、綺麗な人だよ。男には見えない」
ぺろりとスパゲティを平らげた湯野川がフライドポテトを口に放り込んだ。
「あの時、彼女の手相を俺が見た。障害マークが出てるって言ったら、ちょっと困った顔をした」
「樹が気にいったんですか? だけど、申し訳ないけど、あいつにそういう趣味はないですよ」
彼女が一瞬、目を見開いた。
「どうしてわかったの?」
妖艶に微笑んでいる。
「手を見ればね」
「あら、細くてしなやかで、そこらへんの女の人には負けない自信あるんだけどな」
「指の長さでわかるんですよ。薬指のね」
自分の手を眺めるようにしていた彼女が感心したように眉を上げて見せた。
「へえ、知らなかった。でもばれちゃったんなら仕方ないかな。確かに樹君のこと気に入ってるのよ。彼ならナンバーワンになれると思うのよね。それに、あなたも、なかなかいい線いってるわ、どう?」
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