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負傷した兵士達の戦線離脱と強制送還の知らせを受けたのは、寒さに凍え始めた日の朝だった。雨が静かに降っていた。
『怪我の酷い兵士への特別処置です。故に、道中または送還後の生死の約束はできません』
『 ……喜んでも、いいのか? わたしは罰せられないだろうか』
『僕は知らんぷりが得意です。それに、こうして雨も降っている。顔が濡れてしまうのも当然でしょうね』
国務官から青い封筒と同時に手に握らされたのは一枚の紙切れで、それは……きみの手記だった。
『一緒になっておれは幸せになれる自信はあるけれど、おれにあの子を幸せにできる自信なんてない』
手記についた血の跡がきみのものなのか、それとも紙切れを忍ばせてくれた誰かなのかは知らない。
きみの字を見た瞬間に不安より嬉しさが胸を占めた。きみらしい勝手な一文に、止めどなく文句と涙が溢れた。
* * *
ベッドに横たわった一人の負傷兵は、天井を見上げているようで闇を見ているかのようだった。
脚は片側が千切れているようだ。毛布の上に置かれた手の指も本数が合わない。
それでも生きて……。
生きて、きみは目の前にいた……。
「ユイベール?」
きみの名を呼ぶ。
一歩、二歩、近寄る足音がきみにも届く。
一度目は何気なく、二度目は驚いて。
視線を動かしたきみの目元と口元が、ふわっと柔らかく綻ぶのがわかった。
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