prologue

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ーーゴーン……ゴーン……。  戦争からの帰国兵の迎え入れが始まった。  弔いの鐘の音が響く中、人々の嗚咽や哀しみの声が混ざり合う。共に鳴いていた。  戦死者は遺体すら残せず廃になる。  廃になり、敵兵に踏まれ、地に還る。帰国は叶わない。  自国の兵士達は戦場に倒れた兵の遺品を一時帰国の際に持ち帰り、各々の知人に届けることを慣例にしていた。  集落の門に足を踏み入れたばかりの帰国兵士達も、慣例に違わず次々と運んできた物品を広場の中央に所狭しと並べ始めていく。一刻も早く、引き取り手に彼らの死を宣告する為に……。  わたしは硬いパンを両手に抱きながら、降り出した雪と黒い羽織物を頭からすっぽり覆い被せた人々の列を視界の端に映した。  黒い羽織物を身に付けた人々は、一時帰国を許されているのにも関わらず帰って来ない兵士達の家族だ。 遺品を引き取りに来てはいるが、心の中では何らかの事情で戻らないのだと信じている。愛する人の想いを知るまではと。  遠からず明日は我が身……。  心がひやり。 『戦死者は尊い犠牲である。故に涙を流してはならない。戦死者の家族に対しても同様である。涙は侮辱罪に値する』  国の決まりにギュッと目を瞑ると、わたしは足早にその場を離れた。
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