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3.聖なる夜に。
程なくして三年の月日が経つ。
女子供、年老いた者ばかりとなった集落では祭事の支度に追われていた。
拡張された墓地の清掃が終わり白花を手向けると、わたしの仕事には区切りがついた。あとは祭事用の衣装に着替えて夜を待つだけになる。
雪を降らせたいのか?
星を降らせたいのか?
いいや、違う。きっと光を降らせたいんだ。
見上げた空は随分と明るい。
死者にも生者にも分け隔てなく闇を晴らす光が降ると謳われる、今夜は数年に一度の聖なる夜。
この日ばかりは皆が揃って、神に感謝と崇拝を、死者には敬愛と祈りを捧げる集落のしきたりがあった。
広場一帯に祭事の装飾が施されるので、日頃は閑散とした場所も賑やかな雰囲気に彩られている。
神から贈り物が授けられるとも言われている祭事。思いも寄らない恩恵が囁かれても、何ら不思議ではない聖夜。
「はぁ……はぁ……っ!」
天に祈りを捧げるため、広場の祭壇には人々が集まり始めていた。わたしは息継ぎを忘れた魚のように踠きながら彼らの間を潜り抜けていく。
「あ……あの……っ! 此処に、負傷した兵士は、いるのか!?」
白い布だけをドアにした粗末な建物。そこに入ると、入口に立つ衛生兵にしがみ付いた。
彼は口が不自由なのか、ひとつ頷くと奥を指し示す。衝立の後ろからは湿った空気と消毒液の匂いがした。
「ありがとう!」
心臓が壊れそうだった。
頼むからまだ壊れないで、と胸に手を当てる。
縺れて転びそうになる足を、わたしは必死に動かした。
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