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prologue
パチッ、パチッ
焚き火に焚べられた枝が爆ぜる。火の粉が、一瞬だけの煌めきを魅せては消えた。
雪が降り出す前の特有の静けさが、僅かな音や光を鮮明にしている。
「嬢ちゃん、パンは二個で足りるのかい?」
「ああ、二人暮らしなんだ」
「……そうかい? じゃあ今すぐ袋に詰めるからね、その間だけでも焚き火で手足を温めてお行き。毛糸の手袋も厚底のブーツもないんじゃ、じきに綺麗な肌も霜焼けになっちまう」
国から配給される硬いパンは家族分だけだ。
家族が欠けても申告せずに家族分のパンをもらう貧民は沢山いるというが、わたしの保護者は嘘を嫌う。
パンを包む民間隊員が『賢く嘘は吐かないと飢えて死ぬよ』と、今も暗に諭してくれていた気がしたが、わたしは素知らぬふりをした。
パンの受け取りを待ちながら焚き火に手を翳す。
ゆらゆら、ゆらゆら。
貧相な焚き火からは細く長い煙が立ち昇っていた。釣られて天を見上げ「はぁっ」と吐き出した息も真っ白だ。
「あったかいのに、寒いな」
戦地では敵兵が戦死すると回収したのち死体は山にされて燃やされるという。立ち昇る煙や業火の激しさで戦況の優劣を顕著にするのだと。
ここは、冬は豪雪で隠される金鉱山の里。
悍ましい優劣の煙なんて見えやしない集落だ。
極小ながら恵まれた領地を有する自国は、隣国にとっては喉から手が出るほど手に入れたいものだそうだが、隣国との距離もある集落から覗き見る現実はそうじゃない。
隣国が強奪しようとしているのは金鉱山ではなく、人の命だ。こうして焚き火で手を温めている間も、戦地では人の骸が燃やされている。
ーーふわり、ふわり。
曇天から汚れ知らずの雪が降り出した。
町や里から遠く離れた戦場にも、雪は選り好みなどせず平等に降っていることだろう。戦う兵士にも、命の途絶えた兵士にも、遺体を燃やす炎にも。
「真っ白に赫を混ぜたら、悲哀の色だろうに」
地上は汚れている。なのに、どうして天は綺麗なものを落とす?
掌の上に乗せた雪は綺麗なまま水に還る。
自然の摂理は声なき声で言っているようだ。地べたを都合よく汚しているのは人ではないのか?と……。
そして重厚な雲のカーテンの向こう側で、天の答えも黙りを貫いている。甚だ、わかりきった答えなど懇切丁寧に教えるつもりもないのだ。
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