かつて存在したある大陸についてのおはなし

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 A国は、以前からB国の領土を狙っていた。  だが、A国にも言い分があった。A国はもともと貧しい国だ。土地は痩せ、何を植えてもまともに育たない。毎年のように多くの餓死者を出し、砂漠は、飢え死にした人々の骨で白く見えるほどだった。  一方、B国は豊かな国だった。土も肥え、雨もよく降り、何を植えてもすくすく育った。食べ物は満ち足り、余った食事は家畜の餌になった。A国はB国に、余った食糧を分けて貰えるよう何度も頼み込んだ。が、B国はその悲痛な声に一切耳を傾けなかった。貧しいA国には、代償として払えるものが何もなかった。分け与えるだけ無駄だと思ったのだ。  戦争は、A国の勝利で終わった。負ければ飢えて死ぬだけのA国の兵士が、死に物狂いで戦ったからだ。  負けたB国は滅び、A国の一部になった。A国の人々は、それまでの鬱憤を晴らすかのようにB国を略奪した。が、神罰は下らなかった。その頃すでにB国の天使は、国土とともにA国のものとなっていたからだ。彼は、神さまに対してはA国の天使として事情を説明した。悪いのは、食糧を分け与えなかったB国だ。戦争のおかげでA国の民はようやく飢えを満たすことができた。A国の行ないは正しかった……  その後、A国はC国、D国と次々に攻め滅ぼし、天使を連れ帰った。連れ去られた天使たちは、元B国の天使と同様、A国の天使として神さまに事情を報告した。  その後もA国の侵攻は止まらなかった。やがてA国は、大陸一の大国へと成長する。天使の数も増える。と、今度は、こんな提案をA国は持ち出した。  今後、国家間の問題は、天使たちに多数決で決めてもらおう。  それは当時、A国で財務大臣を務めていた男の発案だった。戦争で領土が増えるのはいい。富が増えるのもありがたい。ただ、正直に言えば、これ以上の戦いは避けたい。戦争は、とにかく金が要る。A国は、度重なる戦争のせいで国庫がすっかり空になっていた。  それでも、周りの国から侵略を受ければ、どうあっても戦う必要がある。そのための金も要る。……が、もし、戦わずして国を守れるなら? 戦わずして、周辺国の侵略を防げるなら?  そうして思いついたのが、先の方法だった。
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