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ほかの国々は、当たり前のように反発した。
天使たちの多数決。それは実質、天使を最も多く確保するA国の意見が、すなわち世界の意見になることを意味した。
とりわけ強く反発したのは、もう一つの大国であるZ国だ。Z国は近隣の国と、そこに属する天使に連帯を呼びかけた。数に対抗するには、こちらも数を集めるしかない。するとA国も対抗策に出る。同じように同調する国を募り、同意を集めた。
最終的に国々の勢力は、一部の小国を除けば概ね二つに分かれた。A国とZ国にしてみれば歯痒い膠着状態である。だが、状況を打開しようにも、これまでのように暴力に頼るわけにはいかなかった。そんなことをすれば、今や第三勢力と化した小国たちは恐怖から、あるいは制裁のために反対陣営についてしまう。当然、その国に属する天使たちも。
やがて二国は、どちらがより神さまのしもべに相応しいかを争いはじめた。新しい武器は高性能の銃でもミサイルでもなく、言葉だった。新聞、ラジオ、テレビと、それから高速情報網。彼らはあらゆる手段で自分たちの善良さを――まつろわぬ国々がいかに非人道的かつ野蛮かを訴えた。
天使たちは、その広告塔に用いられた。
効果は絶大だった。事実、天使こそは神さまの恩寵の象徴であり、その数を正義の象徴として誇ることは、彼らにしてみれば何も間違っていなかった。
天使たちは、今や国家の代表という意味を超えた存在と化していた。
彼らの言葉に従うことこそが正義なのだ。それ以外の身勝手な言動は全て悪なのだ。ここで言われる〝天使の言葉〟すら、国の偉い人たちが決めていることを人々は知らなかった。
こうして、二つの勢力の間では憎悪と恐怖とが無尽蔵に育まれていった。
あんな連中の覇権を許してはいけない。もし奴らの侵略を受けたなら、我々は永久に奴隷として繋がれるか、理不尽に虐殺されてしまう。そうして膨れ上がった負の感情が爆ぜるのは、もはや時間の問題だった。
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