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当局の調べによると、犯人は今度こそ本当にZ国の工作員で、当初は十六人全員がターゲットとされていた。天使たちを全員同時に殺害し、仮にZ国が軍事行動に移ろうとも、それを神さまに注進することを阻止する狙いがあったのだろう、というのがA国当局の見解だった。
A国は、すぐに報復行動に出た。Z国に潜ませていた工作員に命令し、同様に、Z国の天使を暗殺した。Z国の天使に限らない。Z国と同盟を組む国々の天使たちをも、A国の工作員らは次々に殺害した。
天使さまが殺された。私たちの愛する天使さまが。
一連の事件は、人々に深い悲しみと衝撃を与えた。一方で、このような疑問が密かに、しかし急速に、人々に広まっていった。
なぜ神さまは、天使さまが殺されても神罰を下そうとなさらないのだ。
そもそも、神さまなるものは実在するのか。
そんな折、一人の天使がテロリストの襲撃に合う。被害に遭ったのは、Z国と同盟を結ぶ国の天使で、当初はA国の仕業と思われたものの、後にA国とは何の関わりもない事件だったことが判明する。
犯人は、とある貧しい工場労働者だった。
当時その国では、日々めまぐるしく法律が変わっていた。Z国は同盟国に、いざという時にA国の侵略から守る代わりに、Z国に有利なかたちでの法律の改正や関税の自由化を求めていた。頻繁な法律の改正は、すべてZ国の密かな介入によるものだった。
その、表向きのアイコンとして用いられたのも、やはり天使だった。
Z国のライフスタイル、道徳、掲げる正義ーーそれらに従うのはオシャレで、先進的で、何より正しいことだと、ありがたい天使さまの言葉として国民には伝えられた。
ところが、実際は法律が変わるたびに税金が上がり、検閲が進み、人々の暮らしは苦しくなる一方だった。
男は、そうした苦しさに耐えきれなくなった大多数の国民のうちの一人にすぎなかったのだ。
天使を殺しても神罰が下らないのなら。
俺たちに苦しみだけを強いるあいつらを、いっそ殺してしまえばいい。
この事件が嚆矢となったのか、他の国でも次々と天使が襲われはじめる。表向きは天使を敬愛し、尊敬を寄せていた人々。だが本音では、誰も天使など愛してはいなかったのだ。そもそも、人々がそう見せていたのは、神罰という圧倒的な暴力が天使たちの背後に控えていたからだった。
その恐怖さえ失われてしまえば、もはや天使たちに敬愛を捧げる必要など誰にもなかった。
そうして一人、また一人と天使が殺されて。
いよいよ最後の一人になった時、それは起きた。
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