かつて存在したある大陸についてのおはなし

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 全ての発端は、神の気まぐれな思いつきだった。  ある日、神は新しく生まれた大陸を舞台にあるゲームを思いついた。大陸に生まれつつあった幾つもの人間の国。それらの国に一人ずつ天使を派遣し、国同士戦わせ、最終的に一国が勝ち残るまで続ける、というじつに悪趣味なものだ。  ところが、人間たちは思いがけず信心深かった。ゲームのために地上に降りた天使たちを、人間たちは勝手に神の御使いとして崇め、とりわけ彼らの前では善良に振舞った。その様子を「つまらない」と愚痴る天使たちもいたが、こと〝彼〟に限れば、むしろ結構なことだと思った。慎ましい暮らしを懸命に守り生きる人間たちは、弱き命をいたぶって喜ぶ天上の連中よりもずっと好ましく見えた。  どうかこのまま、穏やかな日々が続きますように。 〝彼〟の願いは、しかし、不意に破られた。A国のB国に対する侵攻だ。これでようやく面白くなってきたぞと笑ったB国の天使の顔を、〝彼〟は今もよく覚えている。そのB国の天使は、それまで彼を崇めてきたB国の人間たちを嘲笑うかのように、戦争終結後はA国の天使として振舞った。  こうして、天使の赦しを得たA国はその後も周辺国への侵略を続け、瞬く間に大陸の半分を占める超大国へと成長した。その後の展開と顛末は、先ほど〝彼〟がアリスに語って聞かせたとおりだ。  ただ、一つだけ〝彼〟はアリスに嘘をついた。  かの大陸が滅びたのは、神罰のためではなかった。
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