第四章・業火の海 第二話

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 カルバリオの船で来た船上医がフロイスの病状を見てそう進言したが、フロイスはそれを断った。日本に来て間もないフロイスは宣教師としての実績もまだそれほどない。受洗を授けた人数だけ見ても六十人と、アルメイダと比べれば桁が二つ違う。それだけに、この祝日を成功させるかどうかは大きかった。 「明日の祝日を前に平戸や博多、豊後からも多くの人間が集まっている。ここでのんびりと眠ってなどおれぬ……」  そう言ってフロイスが意地を張るのには、もうひとつ理由があった。  貞治から船を沈める計画を聞いて、フロイスはトルレスを船に乗せて大村に送るつもりでいた。しかしトルレスが病に倒れ、自分が大村に向かわねばならない風向きとなった。そこで、純安からの願いを仮病でやり過ごそうと考えていたフロイスだったが、本当に病で倒れてしまった。それを神の怒りに触れたのが原因だと恐れたのだ。  純安はトルレス、フロイスの両司祭の病が癒えそうにないのを見て、どうするべきか考えていた。
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