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歴史の異物
二〇二三年八月十八日、午前八時。空と海は陽が高く昇るにつれ、迫ってくるように青さを増している。空には多くのカモメ、洋上にはグレーの無機質な艦船。
「せがわ」と船首に書かれている定員百名ほどの白い小型客船が、小さな入り江を目前に汽笛を鳴らす。
派手な水しぶきの割にゆっくりと進む、米海軍のエアクッション型揚陸艇を前方にやり過ごして、目的の港へと穏やかな水面を滑ってゆく。
前日の猛暑日を引きずって迎えたこの日の朝、狭い客室内の冷房はフル回転だ。
佐世保港からこの客船に乗り込んだ、ただ一人の乗客である三十代中ごろの男は、寝癖もそのままにぼさぼさの頭をしていた。ジーンズにTシャツ、膝の上にメッセンジャーバッグを抱えたその男は、船窓に姿を現した小島に目をやった。
司馬遼太郎が『街道をゆく』の中で「松露饅頭のようにかわいい」と称した八ノ子島だ。
しかし、現在目を引くのはその形ではなく、島の頂上で傾く十字架だろう。長崎では珍しくクリスチャンのいないこの地にあって、その十字架はある種異様に見える。
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