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起龍の呟きにダミアンは言葉を失った。
頭の中では複数の想いが浮かんでは絡み、消滅してゆく。起龍に怒りをぶつけても仕方がないと分かっていても、そうしないと気が済まない。その怒りの言葉が喉まで上がってきたかと思えば、起龍は自分のことを思って敢えてその事実を告げていなかったのだということも理解できて、行き場のない感情の全てが消化できずに体の中で渦巻いた。
「殴りかかってくるかと思ったが、意外だな」
起龍はまだ船団を見つめている。その横顔に哀しい色が見え、ダミアンは大きく息を吐いた。
「起龍殿……」
「何だ?」
「殴るだけでは足りません。抜いても良いですか?」
起龍を睨むダミアンの目から、涙がひとつ零れた。
「ああ。いつでもかまわん」
起龍がそう応えると、ダミアンは一歩飛び下がりつつ腰の刀を抜いた。間髪を入れず上段から渾身の力を込めて起龍に振り下ろす。
茜色に染まった空に濃紺の夜が広がり、蝉の声も収まってきた静かな港に、刀のぶつかり合う音が鎮魂歌のように鳴り響いた。
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