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第四章・業火の海 第三話
「何があった!」
前進することなく揺れるだけの船上で、純安が叫んだ。
「船が進みません! 潮の流れが変わりました!」
「くそっ、罠か。灯りを消せ! 鉄砲を用意しろ!」
舵はその役目を完全に失い、船は流れに揉まれて一か所に集められていた。
木の葉のように潮に翻弄される船は、軋む音を立てながら互いにぶつかり合った。その船団に向けて、岸から無数の火矢が放たれた。
激しく揺れる船上では、敵の居場所に鉄砲の狙いを定めるのもままならない。幾発かの放たれた鉛玉は、空へ飛び、或いは海に飲み込まれた。
「御館様……」
純安は炎に包まれた船上で、純忠の無事を天に祈った。
大村へ向かう船への奇襲が成功したと確信すると、針尾貞治は狼煙を上げさせた。
「よし! 我らも今富城へと向かうぞ!」
貞治が軍勢を率い、伊ノ浦瀬戸の裏手にある入り江に停泊させていた船へと乗り込むと、今富城へ向け全力で櫓を漕がせた。
狼煙を確認した大村では、どこからともなく梵鐘が鳴り響いた。それを合図に城から火の手が上がった。城の外から放たれた火ではなく、城の中から上がった火だ。
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