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「君は俺のに興味ない?」
勝巳が窓際からすっと離れると、雅人の耳元でチョコレートのような声で囁く。瞬間に机の上を凝視する雅人の耳から顔から首筋から、水分が多くて白っぽい肌まで、うっすらと淡い紅に染まった。
生物としての種類が違うのだ。
入学後に高等部で新入生を迎えるために正装した兄と勝巳が二人で並んでいる姿を見て、雅人はそう思った。
百八十センチ超の長身と固い筋肉の鎧を纏ったバスケット部のエース達。今時流行の醤油顔ではない大河ドラマの衣装に負けない濃いめの顔付きは、常にリーダーとしての資質を求められ、それに応えてきた者特有の強さと凜々しさを讃えている。
それはまるで力と権力を象徴する権天使のようで、彼らの頭上には見えない光の王冠があり、その背には神の寵愛の深さを示す四対の翼があるように思えた。
憧れた。あのようになれたらいいのにと思った。どうやったらあんな風になれるのだろうかと考えた。兄は当てにならない。勝巳に目が向いた。
考え出すと次から次へと興味がわいてきた。同じ学校で、同じ時間帯で動いているその時に、勝巳はどこでどうしているだろうか。そうやって気にしていると同じ学校という生活空間の中で勝巳の姿が何度も目に入るようになった。
家に帰るとなおさら私生活が気になった。一人部屋で悶々とした思春期のモヤモヤを、夏と冬のイベント合わせの小説本にたたき込みながら、彼の男らしい体についた自分と同じ性別の証に興味が沸いた。
自分とはどのくらい違うのだろうか。
あの体格で実は可愛かったりしたらどうしよう。
考えて、ドキドキして、気がついたら朝にだらしない欲望の証を漏らして、天使への冒涜だと自分をたしなめたこともあった。
だから実は、怪我で彼はもうバスケットができなくなったのだと、雅美から聞いた時、雅人は少し嬉しかったのだ。
天使が地上に堕ちてきた。凡人にも目にすることぐらい、人並みの生活を思い描くくらい、許されるくらいの距離に近づいた。そう思った。
まさかその距離がこんなに近いとは思いもしなかった。
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