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 だがそんなことおかまいなしで勝巳は雅人に会いに来る。  最初は兄雅美からの伝言を伝えるためとかなんとか。休み時間というと四六時中顔を覗かせていた。雅美が雅人に対して非常に過保護であるのは知っていたので、ただ顔を見に来ただけ、という理由も最初は受け入れていた。  それがまったく兄のあずかり知らないことであり、勝巳が中等部へやってくるためのこじつけだとわかってから、雅人は拒否するようになった。  だた勝巳は基本的に人の話を聞かないし、変に刺激すると回りに迷惑をかけそうな感じもあった。  放課後なら、いい。それが雅人の最大限の譲歩だった。  家に帰れば過保護な雅美が漫画の新刊だとか、ネット動画だとか、ゲームだとか、常に何かを誘ってきて勉強にならない。放課後の教室なら一人になれる。宿題と予習を終わらせたかったので、勝巳が来ようと来まいとどちらでもよかった。  勝巳は一日も休まず雅人に会いに来た。  大きな図体に圧の強い顔と声をした高等部の先輩がやってきて逃げない同級生はいない。結果、放課後はいつも二人きりとなり、帰りももちろん二人で帰っている。勝巳はいつも嬉しくて仕方ないという顔をする。  それが、雅人には理解できなかった。 「僕は……眼鏡で、デブで、チビで、運動音痴で、オタクで、陰キャで、何の取り柄もないのに」  ちらっと雅美は勝巳を見る。勝巳の顔は逆光の影でよく見えなかったが、厚みのある男っぽい口元がゆるりと綻んでいた。  その唇が開き、雅人の耳に心地よいテノールで語り始めた。
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