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「俺ね、学内弁論大会なんか、ぜんっぜん興味なかったんだよね。だけど、君の第一声に全部もっていかれた」  デブとかいうな。  キャッチ―なタイトルの割に中身は至極真面目なその文章は、この世界に蔓延する外見からくる差別やその無意味さを訴える。書いたのは雅人だ。  弁論大会に出るのはだいたい高等部の生徒が多い中、若干十三才の中等部一年生の文章の巧みさに、誰もが耳を傾けた。何より淡々と切々と語る言葉の裏から彼が積年に抱えた怒りと「殺すぞ、コラ!」という大変男気のあるメッセージを感じ、力強く通った声によってざわつく講堂が一斉に静かになったのだ。 「すごい、って思った。こう言ったらなんだけど俺は生まれてこの方誰かに対して負けたって感じた事なんてなかった。だから、声で、文章で、人の心を刺し貫く奴がいるんだって知って、衝撃だった」  その時の勝巳の目には雅人がかわいい見た目で心の内にペン型の炎剣を抱えた清冽な熾天使(セラフィム)のように見えたのだ。 「君は俺の天使なんだ」
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