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 ぬっと、影が顔にかかる。  雅人が顔を上げると勝巳の伸ばした手が眼鏡を奪っていくところだった。  雅人はむっとした顔で勝巳を見る。眩しいのと視界がぼんやりするので如何しても目つきが悪くなった。 「見えない」 「君の裸眼が可愛いのを知ってるのは、俺だけ」  そんなことはない。  生まれる前から眼鏡をかけっぱなしというわけではないので、家族として過ごしている雅美は裸眼姿を知っている。  ただそれもよく考えたら最近は一緒に風呂に入ることも、眠ることもないので、確かに裸眼顔を見せる相手は限られている。ちなみに学校でもプールの授業で裸眼になるが、雅人は出たことがない。体表面積が広いくせに致命的なカナヅチで、水に入ったが最後命に関わるからだ。  勝巳の手が頬に触れる。  バスケットボールを片手で保持できる大きな掌は硬かったけれども、触れる強さに彼の気遣いが感じられて雅人はうっとりしてしまう。  勝巳の手が頬から耳、首筋、肩、二の腕に触れる。  気持ち悪いと雅人は感じない。これまで少しずつ、少しずつ、勝巳は雅人に触れる機会と場所を信頼を獲得する過程で増やしてきたからだ。  勝巳の手が雅人の手に重なったとき、勝巳が雅人の耳元で尋ねた。
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