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無理やり引き剥がされたというのに勝巳はニコニコして、真っ赤になった雅人の顔を至近距離で見つめていた。
「小説サークルで行列って珍しいよね。柊夏緒先生。夏のコミテックス、お疲れ様でした」
「み、見てたんですか?!」
「うん。新刊、並んで買った。頭一個分大きいグラサンでマスクしてたの、俺」
「ごめんなさい。売り子さんに任せてるから、僕はよく見てなくて」
「いいよいいよ。俺、これまで漫画一つ読む習慣なかったのに、先生の小説の続きが読みたくて、朝一で一般参加よ」
「言ってくれたら献本しましたのに」
「それじゃ意味が無い。自分の足で、自分の金で、買いたかったの。君の書いた物語を、手に入れたかったの」
「……っていうか、あれ、18禁ですよ。売り子さんも年齢確認してたはずです。先輩、まだ未成年じゃないですか」
「書いてる君だってそうじゃない。いやあ、親父が俺に似てて助かった。マイナンバーカードって便利だよね」
絶句する雅人を前に、勝巳はははははと高らかに笑って今度は遠慮無く再度抱き締めた。
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