言葉はいらない

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父と母は、お見合いの席での『趣味は何か』という定番の話題で、好きな 映画が同じと判明して会話が弾んで、その勢いで結婚したそうだ。 そんなことが信じられないくらい、父は母とも娘の私とも会話をしない。 リビングでテレビを観ていても、バラエティー番組で笑うこともない。 ものごころついた頃には寂しくて母に泣きついた。 母はいつも笑顔で「お父さんは真希(まき)のことが大好きよ」と、言うけど 実感できなかった。 そのまま14歳になって、いまは思春期として父親という男を敬遠している。 たまにやってる貧乏ゆすりが嫌だとか。 それでも母は「お父さんは変わらず真希が大好きよ」と、言う。 どうしてそれがわかるのか不思議なままだ。 そして。 更に、よくわからないままになった。 母が急死してしまったからだ。 身体の不調を訴えて病院で診てもらってから、あっという間で命は途切れた。
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