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泡沫(うたかた)と海鳴りの星
「お客様にお知らせします。ただいま当惑星外におきまして、強烈な磁気嵐が発生しております。安全を考慮しまして、磁気嵐が治まるまでの間は当惑星からの離陸、及び宇宙からの着陸は一時停止させていただいております。現時点で磁気嵐の収束の目処は立っておりません。離陸予定のお客様で搭乗便のキャンセルを行いたい方は――……」
星間旅客船の空港ロビーには、つい数時間前から空港機能が麻痺したことを告げるアナウンスが繰り返し流されていた。
どんな小さな惑星でも、磁気嵐が星の内部を荒らすことはほとんど無い。
しかし惑星外にある電子機器には多少なりの影響が出てしまうため、船と管制塔の連絡が上手く取れず、今この空港へ出入りする船とそこで乗り降りするはずだった人や物は全て足止めを喰らっている。という状況なのだ。
磁気嵐等で運航予定が変わることはどの星系に行ってもあることで珍しい事ではないにせよ、それでも遭遇してしまうと厄介なものだ。
特にこの星系の太陽は気まぐれで、頻繁にこうした突然の磁気嵐が起こるらしい。小さな星の小さな空港だから、キャンセルの手続きで空港の中は混雑中だ。
その中でもこの空港をよく利用するらしき人達は慌てるでもなく、またか、と諦めを露わに途方に暮れている。本当によくあることなんだろう。
少し伸びてくせが出始めた髪をさらに掻き乱して、ため息をひとつ。
「急ぐ旅でもないからいいとしても、さて……どうするかな」
おれ、ヴァルターは、数年前新たに始めた惑星開拓の仕事にひとつ区切りを付けて、次の仕事が始まるまでの間に取った長期休暇を使っての旅行中だ。
行こうと決めていたところへは全て訪れ、拠点にしている星への帰路に着くだけのルートの乗り換えでこの空港に降りた。あと数時間で乗り換え便に乗れる、というタイミングで突発的な磁気嵐に巻き込まれてしまった。
やっと座れたところで休暇の日数確認のため携帯端末を眺めて見れば、磁気嵐に負けること無く届いていたメッセージを知らせる通知が光っていた。
「メッセージ? 旅行中は誰も連絡寄越すなって言っておいたのに。誰だ?」
端末の上に浮かび上がる昔ながらの封筒形をした手紙に指先を向ければ、ワンアクションで一枚の紙のように展開された。
目の前に、表示された半透明の紙の上には、短く言葉が並んでいる。
それを読み、さらに差出人を確認して、おれは息を詰めた。
――お前、まだ、俺を抱けるか?
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