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「ここだここ。穴場なんだ、人がいなくてさ」
「ここ? ……って」
招かれて行った先は、無重力ドームだった。街の区画をひとつ使うくらいの大きさで、中は安全面に問題の無い若干の重力がかけられたほぼ無重力状態になっている。
常に星空を映した天井に、満たされた空気。なのに、無重力。宇宙空間を私服で泳げる場所、なんてうたい文句で昔からどこにでもある施設のひとつで、珍しさも無いから人気もまばらなのは肯ける。
でも、そういう場所を求める人は一定数いるらしい。無くならないということはそういうことなんだろう。都会ならばなおさらか。
「ノール。……貴方、実はルクススの街、慣れてたりする?」
無重力の中に放り出されても上下感覚を無くさないためと、身体的な負荷を軽減させるための装置を施設側から渡されて、両手足と首に付けていく。装置は採掘師の装備のかなり簡易版みたいなものだからおれには慣れたものだけど、ノールはそれより早く身につけていた。
「結構来てるでしょ、その様子だと」
おれが拗ね気味に顔を見れば、ごめんな、って笑顔が返された。
「ムーサの技師にもこの街が好きな奴多いんだ。他の星から来た奴らが来るたび商談だとか言って、ここへ連れて来る。昔から師匠の付き添いで何度か来てたから、うん、まあ……華やかな街の部分は一通り、慣れてたかな」
そんな付き合いの隙を見て来ていたのがこの静かなドームだと、ノールは苦笑する。
「そっか……じゃあ息抜きにはならなかったかな。おればっかりはしゃいでた? もしかして」
珍しくもなかったなら、と、無重力空間に踏み出しながらおれが言うと、続いて飛んだノールは首を振った。
「そんなことないよ。……お前と一緒に騒げて楽しかった。今までのは付き合いでしかなかったから、今日は、遊んだって感じが強い」
「それならよかった」
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