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メッセージを閉じてから、おれは少しだけ苛立ちを込めて唇を噛む。
ぼんやりしながら視線を上げると、淡い青から濃く暗い赤へ、この星の夜の色がそれなのか、長い夕焼けの色なのか、変わる空色を眺め不安げな表情を浮かべる人たちの顔がガラス越しに見えた。
あんなメッセージを読んだ後だったからか、懐かしい星の風景を思い出す。
他の星よりも紫がかって見えた空。夕暮れになるとひときわ濃い紫色に変わったその色によく似ていると、あの人はおれの眼を見てそう言っていたっけ。
強い風と刺すような日差しが降り注ぐ下は、空より濃く澄んだ青い色。
惑星ムーサは、大気に触れる大地よりも多くの面積を海が覆う水の星だった。そこで働き暮らす人達は自身を人魚と呼び、その海の星を出て戻らない者は、泡になって消えたとのだとよく言われていた。
「おれは泡になってしまったんだよ、ノール。……貴方も、そうじゃなかったの」
肩で息を吐くと、閉じていた蓋が壊れてしまったみたいに懐かしい事ばかりが頭の中を駆け巡り始めた。
器用で意外としっかりした形の指先は敬愛の対象だった。蒼に砂金を散らしたように見える眼で前を向いている姿は心強くて、色素が薄くて柔らかな髪と、思い切り笑って紅潮するその笑顔が、何より愛おしかった。
凪いでいた感情が、あの星の荒れた海の波のように、掻き乱されていく。
強く打ち寄せてくる記憶の波も、磁気嵐同様しばらく静まりそうもなかった。
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