泡沫(うたかた)と海鳴りの星

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 惑星ムーサはその頃、有名な技師が集い、採掘の熱気が最も高くなっていた星だった。  おれもその星以外にないと飛び込んだ口だ。でも、入ってすぐの頃なんかは、鉱脈を探り当てるどころか下働き程度の仕事しか無い状況。そんな仕事しか出来ないことに文句を言って、やさぐれる者も多くいた。 「腐るならさっさと泡になっちまえ」  そう言う声が毎日街のどこかから聞こえてくる。 「親方は、ああいうこと言いませんよね」 「うん?」  あの日、おれは親方に連れられて惑星ムーサの技師街に向かっていた。  親方はおれが居着いた地域で既にひとつふたつ大きな鉱脈を掘り当てている人で、自身でもまだ採掘師を続けながら、若手の世話役も……こちらは片手間ではあったけど、こなしていたすごい人だ。他の親方仕事をしているだけの人達よりはいくぶん年若くても、熟練と言って申し分ない。  おれはたまたまその人のところで下働きで雇って貰えて、その頃は何度か採掘の仕事を手伝うくらいにまでなっていた。  その親方に、おれは話しかけた。 「おれ、親方に、泡になっちまえ、ってやつを言われたことがないなぁ、って」 「あー。人魚の魂捨てるなら泡になって消えてしまえ。ってやつか? いやいや、俺も言うときは言うぜ? 今まで何回言ったかわからんよ」  チームの仲間にも言ったことがあるぞ。そう笑って親方は返した。
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