泡沫(うたかた)と海鳴りの星

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「しかし、いつ聞いても思うけどさ。あの、採掘師が海中に潜水していく姿が尾やヒレの長い魚みたいに見えるから『人魚』、その人魚を続ける夢を捨ててムーサから出て行くことを選んだやつは、決して水の中には戻らないものって意味で『泡』って呼ぶやつ。この星でいつから使われてんのかは俺も知らないが、なかなか詩的な言い方だよな」 「え、ああ、まあ。はい。そうですね」 「言われる方だと、ただただ頭にくるだけなんだがなー」 「あはは……」  惑星ムーサの表面はほぼ海が覆う。申し訳程度に小さな島が点々と存在するも、その地表は強い日差しと強風に晒されてとてもヒトが定住出来る状態ではない。  だから、街があるのは海面より下。採掘が済み、比較的平坦で安定した場所に作られた、過酷な星なら珍しくないドームの中にある。  中の気候は調整されていて適温が保たれるものが一般的だけど、海の中にある分肌寒さが勝っているところは珍しいことかもしれない。  ドームは採掘済みの場所にある。ということは、必然的に水の下で暮らす惑星ムーサの採掘師は海に深く潜って作業を行うことになるわけだ。  おれたち採掘師は空想物質(ソムニウム)を使った、耐水耐圧耐熱、ついでに対衝撃機能のついた特殊なスーツと、空想物質(ソムニウム)を掘り出すための装置を採掘用の装備として身に纏って潜っていく。  その装置が作る淡い光と水中に残る潜水の軌跡が長くたなびく尾鰭のようで、ムーサの採掘師は人魚を名乗るようになった。という話は、この星の昔話として語り継がれていることだった。
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