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コーヒーカップをテーブルに置き、またポケットからスマホを取り出した。
今度は迷いなく画面をタップし、匠深の番号へ発信する。
数コールで「も、もしもし、」と応じた彼は、明らかに動揺していた。
「話したいことがあるので、家に帰ってきてもらえる?」
敢えて″家にきて″ではなく、″家に帰ってきて″と伝えた。
「あ、うんわかった……
ていうか、実は、家の前に今もういて」
「え!?」
通話を続けたまま慌てて玄関へ行き、ドアを開けると、バツの悪そうな笑みを浮かべる彼がそこに立っていた。
「ごめんね、朝からいきなり来ちゃって。
今日はお仕事、お休みなの?」
尋ねながら、通話を終了しスマホをズボンのポケットにしまう。
黙って頷けば、
「じゃあ今日はじっくり口説けるね」
嬉しそうに笑い「入るね、」と靴を脱いで上がる。
ふわっと、わたしが飲んでいたものとは違う芳醇な珈琲の香りが漂った。
「美望莉ちゃんと飲みたいと思って、美味しい珈琲豆を持ってきたんだ」
いそいそとキッチンへ向かう匠深のあとについて、わたしもスマホをまたエプロンのポケットにしまった。
「このミル、まだ使ってくれていたんだね」
それは結婚する前から匠深がわたしのアパートに持ち込んでいたもので。
いつも彼はこうして、二人が飲む分だけの豆を挽いて、最高に美味しい珈琲を淹れてくれていた。
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