夏祭り

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「のぞみ先生、こんにちは?」 冗談ぽくそんなふうに言ってくる。 楽しげに笑いつつ、今日はおろしている長めの髪を耳にかける仕草が、相変わらずの色気を無自覚に孕んでいた。 濃紺に白帯の浴衣がよく似合っている。 けれど今はそれを口にして褒める気分には到底なれなかった。 「のぞみ先生、今日はありがとうございます」 マタニティワンピースの葉月さんが、深々と頭を下げる。 「全然大丈夫ですよ、こちらにどうぞ」 椅子が用意されたテラスに案内した。 園は、芝生の庭をL字に囲むような建物で、廊下も兼ねたテラスは庭に面した板張りで広々としている。 そこから子供たちのお神輿や盆踊りの様子が眺められるようになっていた。 煌河くんはお友達と屋台の様子を探りにいき、葉月さんはママ友とお喋りを始めた。 だから、なんとなく唯くんと二人きりになる。 まさかこんな形でまた会うことになるなんて。 「葉月さんはゆったりと座って楽な姿勢でお祭りの様子を見ててもらって、唯くんは、煌河くんと盆踊りをしたり屋台を一緒に回ってあげたりしてね」 「了解。今日はパパ役を頑張るよ」 「唯くんがパパとか、全然イメージないね」 「そうだな、結婚とか子供とか、今までは考えられなかったな。 だけど煌河が生まれてすくすく育っていくのを間近で見てたら、家庭を持つのも悪くないなって思うようになったよ」 「へえ……それは意外、かも」 私の反応に黙ったまま伏し目がちに笑い、ゆっくりと瞬きをしたあと、また改まったように見つめられる。
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