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◇
5時近くになり、参加予定の園児や家族達は、今来た親子で最後。全員来園したことを確認する。
「じゃあ私たちも戻りましょうか」
同じ浴衣姿のらいおん組あかね先生の言葉に頷き、受付の名簿をパタンとしまった。
「トイレに寄るから先行くわね」
あかね先生が行ってしまい、私もすぐ園庭に戻らなくてはいけない。
やっぱり、のんは来なかった。
こっそり忍ばせてきたスマホを確認する。
当たり前に、のんからのメッセージは届いていない。
きっともう、今までにないくらい本格的に怒らせてしまった。
そんなの、当然だ。
来てくれるかもしれないなんて、思う方がおかしかった。
唯くんは一昨日の夜のことを知らないから、のんが絶対来るなんて言ったけど。
顔が強張って、表情筋が石のように固まっているのがわかる。
泣くことはないけれど、今日は笑うことも出来なそうだ。
こんなの、先生失格だよね。
とぼとぼと園庭に戻りながら、ああそうだ、屋台用にたくさん用意したお面がある。
そのお面をかぶっていようかな、と思いついた。
能面のような無表情よりはよっぽどいいだろう。
園庭の隅、屋台用の荷物がたくさん集められた中、お面をたくさん入れたダンボールのそばに座り込んだ。
一枚一枚手に取って、さあどのお面にしようかとぼんやり悩んでいた、そのとき。
「そのお面、俺ももらえたりすんの?」
背後から、あり得ないはずの声が届いた。
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