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エピソード⑧
「死者ナバアよ。汝の罪は、己が無知を恥じず……他者を傷つけていても、それにすら気づかぬ事である」
アヌビスはなるべく穏やかな声で、ナバアに対応した。だが……やはりと言うべきか、ナバアは引かなかった。
「アヌビス様、わたくしのどこが無知なのでしょうか? 勉学に励み、それなりの知識は有しているつもりです。何を知らないのか、是非教えていただきたいです」
ナバアの言葉に、アヌビスは茫然とする。確かに彼女は、勉学には励んではいた。だが、人心を理解しようとしなかった。学ばなかった。
それこそが彼女の罪。
だが……この調子だと、ナバアは理解できるのか? おおいに不安であるアヌビスだが、アスフールとウグニヤの時よりはマシであろうと判断して解説を始めた。
「死者ナバアよ。汝は人心を学ばず、理解しなかったであろう? それにより他者を傷つけても何も感じず、反省も後悔もしなかった。それぞ、汝の罪である」
「失礼ながらアヌビス様。わたくしは、親身に相談や困りごとのお話を聞いておりました。充分に貢献していたはずです」
一見丁寧な口調だが、その実、自身の罪を頑なに認めないナバアに、アヌビスは頭痛がし始めた。話が通じそうで全く通じていない。
理解する気が、一切ない。
それこそが罪だというのに、認識出来ない。
困り果てたアヌビスが、どう伝えるべきか悩んでいるとナバアが口を開き、弁明しはじめた。
「わたくしに至らぬ点があったとしたら、具体的に何が不足していたのか教えていただきたいです。そうでなければ、納得がいきません!」
ナバアの発言の数々が、無礼かつ厚かましい事この上ない。何よりも、歩み寄ろう、理解しよう。そういうつもりが一切ない事だけが伝わって来る。アヌビスは、もはや理解させる事を諦め始めてきた。
「トートよ……」
「ご安心を。対策なら構築出来ております。これより彼女に魔法をかけますので」
トートが呪文を唱え始めると、ナバアの身体から黒いオーラが出てきて、彼女を包み込んだ。
「今ですよ、アメミット」
合図を受け、アメミットが口を大きく開いてナバアを黒いオーラごと食らった。彼女の魂も……そして思念も、完全に消滅した。
これにより、死者ナバアが転生する事は二度とない。
無知を自覚せず、歩み寄る事もせず。
そうして、相手に無遠慮な言葉を浴びせるのも……またモラハラの一つなのである。
――人間の業とは、深く恐ろしいもの。
ここまでの騒動で、冥界の主人であるアヌビスは悟ったのであった……。
なんとも言えない感情が、アヌビスへ更なる心労を与えた――。
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