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エピソード⑦
アヌビスがトートの元へ向かうと、金切り声が聴こえてくる。
その声にうんざりしながら、それでもアヌビスは冥界の主人として対応すべく怨念の前へと出る。
「死者アスフールとウグニヤの怨念よ。汝らの記録を視たが、違う事なく咎人である。魂も消滅している今、汝らに慈悲はない」
言語にすらならない奇声をあげるアスフールとウグニヤの怨念に、アヌビスが告げる。
「消えよ。トート、マアトの羽根にて」
「承知致しました。ではお借りし……呪文をいざ」
トートがマアトの羽根を借りて、魔法を発動した。
浄化の魔法であり、穢れを滅する魔法である。
悪しき怨念、アスフールとウグニヤの執念はここでようやく途絶えた。
完全に消滅したのである。
最期まで己の醜さを認識できないクレーマーと化した彼女達に、慈悲も救いもない。
こうして……騒動は終わった、と皆が思っていた。
****
「死者ナバア。貴女の魂が善か悪か? マアトの羽根と貴女の心臓を秤にかけます。よろしいですね?」
一件落着した冥界では、再び死者達の審判が始まっていた。次なる死者ナバアは、目を瞑り静かに時を待っているようだった。
「では、汝の罪を測ろうぞ」
アヌビスが天秤で測る。その結果は……。
「審判を下す。汝は……失格である。アメミット」
アメミットが口を大きく開けた時だった。静かにしていたナバアが突然……大声で泣き出した。その声量に、思わずアヌビス達が驚く。
「わ、わたくしは! 何の罪を犯したのでしょうか!? 詳細を教えていただきたいです! でないと、納得できません!」
アヌビス達は、ナバアの言葉に思わず頭を抱える。またしても現れたのだと理解したのだ。
――またしても、クレーマーが現れたのだと。
新たなるクレーマーが、どんなモラハラをして来るのか? アヌビス達に緊張が走る。
ただでさえ、アスフールとウグニヤの一件で心労が蓄積されたというのに……またしてもである。
アヌビスの心労。
トートの苦労。
冥界の他の神々達の疲労。
彼らの辛く、苦しいクレーマーな死者達との戦いはまだ終わりそうにない。
うんざりしている神々の心中など、理解する事ない。
それが、モラハラをする者の心理である。
何せ、彼らは自分達の行いが悪であると気づかず、むしろ正しいと信じて疑わないからだ。
――愚かで醜く、それこそが罪の証だというのに。
なんとも哀れな存在であると、アヌビスは思いながら……ナバアに真摯に対応する事にした。
諭すような口調で、かつ刺激しないように言葉を選びながら……。
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