1.某日、夏

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1.某日、夏

  「だるい。」  僕の口から意味もなくそんな言葉が吐き出される。 7月、そんな気だるい気持ちを誰かに伝えるでもなく、学校へと向かう支度       をする。  僕、寺嶋蒼矢は高校3年生、地元から離れた高校に通っている。地元の高校を選ばず、この高校を選んだのはこの地域有数の進学校で親から猛烈に勧められたからという安直な理由だ。  離れた高校と言っても30キロほどだが。  だが30キロを毎日電車で登校するとしても一時間ほどはかかる。 そんな生活を週に5日間も続けるのは、電車を見る趣味もない怠惰な自分には到底無理だと感じた。  なので、今は学校まで徒歩5分の下宿「ゆらめき」に住んでいる。 築40年であって、男子生徒しかいないこの下宿は古い。冷房まで完備され ているが、幾分壁が薄く隣の部屋からの音が壁を突き抜けてくる。それ以外は食事も三食用意されるので特に特筆する不満もない。  学生の本業である勉強にも集中できる環境だ。ベッドと机、風呂、トイレと基本的家具が備え付けられただけの模範的学生部屋だ。もちろん掃除もしてある。(別に潔癖症ではない)  それはそうと今の最優先事項は学校に遅刻することなく登校すること。どうにも学校との距離が近いと遅刻ギリギリの登校タイムを叩き出すことになる。  下宿のドアを開け、申し訳程度の安全確保のために片方の耳にイヤホンを装着し、今流行のJ−popを流し始める。自転車に乗ってペダルを動かし始める。         ただ学校まで直線の道を4分ほど必死にペダルを回す。  もちろん登校中に会う生徒など誰もいない。 自転車置き場に自転車を置き、2階の自分の教室に向かう。 自分の席は窓側の最後列席。  カーテンが閉じられていても温かい陽気が僕を包み、眠気を誘うこの席はクラスの全員が羨む特上席だ。(別に授業をサボりたいってわけではないけど) 特に誰と話すことなく、教室に入り、自分の席に座る。すぐに担任からの朝の短い話が始まる。  それが終了した後、前の席の佐川が僕に向かって言った。 「で、結局あれどうなったん?」
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