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この世に生まれた人間は皆一様に『運命の一冊』という本を持っている。
誰にも見せてはいけない、読ませてはいけない、両親でさえも子が育ち文字を読める頃になるまで厳重に保管していなくてはならない。
どうしてただの本がこんなに重要に扱われるか不思議に思うだろう。
この本には『運命』、自らが生まれ死ぬまでの一生が書いてあるのだ。
人生の中で起こる選択や決断、就くべき職業や出会うべき友、そして運命の相手、全て書いてある。
誰しもが自らの道を指し示す、『運命の一冊』の通りに生きることに喜びを感じている。
『運命の一冊』はどこで出会うのかは書いてあっても誰と出会うのかは書いていないらしい。
だから結婚式に2人は『運命の一冊』を見せ合い、自分たちは確かに運命だったと再確認した時が、人生で1番幸せな瞬間だったとは母の言葉だ。
私はその言葉に憧れを抱き、そうなりたいと願った。
しかしどうしてだろう私の『運命の一冊』を開くとそこに文字はなくただただ真っ白なのだ。
『運命の一冊』は誰にも見せてはいけない。だから私の本が真っ白なのは誰にもバレることは無い。
私は運命が分からない中、模索しながらも今日まで生きてきたが、常に空白の『運命の一冊』を持つ意味を考えていた。
どうして私だけ空白なのだろう、もしかしたら神が書き忘れたんじゃ無いのだろうか、それとも何かの手違いで間違えて生まれてきてしまったのか。
いつもならば気が滅入るので、こんな答えの出ない考えはしないようにしているのだが、今日は別だ。
私は今、高校の入学式の真っ只中にいる。
高校というのは『運命の一冊』の中でも特にページ数があって、重要な選択肢も多いと両親は言っていた。母と父の運命が重なり始めたのも高校からだったらしい。
だが私には重要な選択肢も運命の人も分からない。
私にはこの入学式は真っ暗なトンネルに入っていくようなものだった。
辺りを見渡すと全員が本の通りに行動し始めていた。中学の時は『私と友人になる』と書かれた『運命の一冊』を持った子から声をかけられたので、大事には至らなかったが今回は声をかけてくれる人はいるのだろうか。
だんだん不安になり辺りを見渡していたら、誰かとぶつかり転んでしまった。
「ごめんっ!! 君、大丈夫?」
『ごめんっ!! 君、大丈夫?』
「うーん、王道すぎな気もするけどなぁ」
「当初のヒロインが尖りすぎてたんです。やっぱり王道が一番ですよ、ヒロイン変えましょ。」
「あーあ、恋愛漫画の原作って、難しい仕事受けちゃったなぁ」
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