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《闇を切り裂く》
ごんべえの背中は大きくてふわふわとしていた。だがその前に自分が空高く飛んでいることに葉名は想いを走らせる。
空はこんなにも大きくて、澄んだ水色であることを。雲は綿菓子みたいで美味しそうであった。
「地蔵さんっ、すごいね! 空ってこんなに広いんだ!」
「驚くのにはまだ早いで。今から嬢ちゃんの母さんの意識に入るために……空の海に飛び込むんや」
「空の……海?」
ごんべえが身体をしならせて空を走る。
「ごんべえ、空のなかへ!」
地蔵が命令を下せばごんべえは空を泳いだ。
空気が薄れていく感覚に陥る。息がしづらい。すると地蔵が赤いハンカチを再び葉名に授けた。
「このハンカチで息を吸うんやで。大丈夫、そのハンカチが守ってくれる」
言われた通りハンカチで鼻を抑えて息をすると……不思議と呼吸がしやすかった。そのまま呼吸に集中し世界を臨めば、暗黒たる世界へと誘われる。
地蔵が声を上げた。
「まずいっ、あんたの母さんが闇に取り込まれている! このままやと一生目を覚まさん!」
「うそっ、ど、どうしよう! お母さん、死んじゃうの!?」
「死ぬんやない。一生眠り続けるんや。どうしたらやええんやろう……」
地面へと降り立ち地蔵が困った顔を見せていると、ごんべえが葉名の服の袖を引っ張る。何事かと思ったが、地蔵が意味がわかったらしい。
「そうや……。お嬢ちゃんが母さんの所へ行って、闇を切り裂くんや!」
「闇を、きりさく?」
反芻する葉名に地蔵は赤いハンカチを持たせたまま「ええか、嬢ちゃん」そのまま真剣な眼差しで言葉を紡いだ。
「あんたの母さんの闇を切り開くんはあんたしかいない。大丈夫、ごんべえも
一緒や。私は嬢ちゃんが帰れるように出口を見つけなきゃあかんから、手伝えないんや」
「……私、できるかな?」
「あんたならできる。お参りしたときのこと思い出してみ? 強い心を持って闇を切り開くんや」
ごんべえが葉名の背中を押し、地蔵と離れ離れになってしまう。それでも地蔵はにっこりと微笑んでいた。
別れてから闇のなかを潜り抜け、ごんべえが目指す方向へと向かえば……そこは暗黒に染まっていた。
赤いハンカチを握りしめ、大手を振って闇を晴らす。
すると霧が晴れるように闇がすぅと消えていく。そしてそこには……眠っている高榎の姿が居た。
「お母さんっ!!!!」
ごんべえと近づき高榎を抱き締めた。すると高榎が目を覚まし呆然とした様子である。
「……葉名? どうして?」
「地蔵さんとごんべえさんのおかげだよ! お母さん、ここから逃げよう!」
「でも、出口がわからないわ」
そうだ。確かに出口が見当たらない。
葉名は再び赤いハンカチを振って高榎とごんべえと共に闇のなかを切り裂いた。
するとそこには地蔵が待っていたのだ。
「よかったわぁ~。出口、見つけておいたで」
「……ありがとう! 地蔵さん!」
「ええっちゅうねん。このお返しは、そうやな。……お稲荷さんで頼むわ」
出口に光が差す。すると葉名と高榎は光に包まれた。
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