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4 無邪気な少年アルン
「ねぇ、お姉さん。ボクも絵、描きたい!」
いつの間に、どこから入って来たのか。
巻き毛金髪、碧眼の幼い少年がアデルの描きかけの絵を見ながら言う。
一瞬驚いたアデルだったが、満面に笑みを浮かべた少年につられて思わず微笑んだ。
先ほどまでアントンが座っていた椅子にちょこんと座った少年は床に足が届かず、ぷらぷらさせている。
その様子も可愛らしい。
アデルは少年の前にスケッチブックを開き、鉛筆を渡しながら、優しく言った。
「描きたいもの、描いてみて。見て描くのか、想像するのか」
アデルの言葉に少年はニコリと笑った。
大抵の子どもは鉛筆を渡されても、何を描くのか戸惑うだろう。
アルンと名乗った少年は臆する事なく、楽しそうにグリングリンと鉛筆を動かし、大胆に何かを描いた。
何を描いているのだろうと興味はあったが、ずっと見ているのも悪いかと思い、アデルは自分の絵に向き合う。
毎日見ている天使像。
自分の目を通した天使像をカンバスに落としていく。
「きれいだね。でも、なんだか悲しそう」
いつの間にか自分の隣に立ち、絵を眺めているアルンにアデルは驚いた。
そして、聞き返す。
「悲しそう?」
「うん、悲しそう」
そう言ってアルンは自分のスケッチを、アデルに見せつける。
まん丸ギョロリ目。ゲジゲジ眉。タラコ唇。
ユーモラスなおじさんに見える。
アルンのパパかしら?
そう思ったが、絵には頭の上に輪っかがある。
アルンのパパは亡くなったのかな。
「ねぇ、アデル。見て。これ」
スケッチブックを広げ満面の笑顔で、アデルの感想を待っている。
「この人は、とても楽しそう。見ているとウキウキしてくるような……良い絵だわ」
不思議な絵だった。
幼い少年が描いた、拙い絵。
それなのに、思わず微笑んでしまうユーモラスさと眺めていてワクワクする高揚感を覚えた。
アデルは、子どもの絵だからと言ってバカにせずに、ステキだと思うところを口にした。
大喜びのアルンは、アデルに頼んだ。
「ねぇ、アデル。色つけする道具、貸して? 明日返すから。僕の家の天使像に色をつけて、喜ばせたい人がいるんだ」
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