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6 困り果てたセラフィは……
コンコン。コンコン。
ノックの音がする。
床にへたり込んだアデルは、ヨロヨロと立ち上がった。
アトリエの扉を開けると、帽子を目深に被り、マスクをつけた背の高い男性が立っていた。
「はい……」
返事をしたアデルに、男性が布袋を渡す。
思わず受け取ったアデルは、布袋の中身が金貨であることが分かり、男に布袋を返した。
男性は受け取らず、手短にアデルに伝えた。
「あなたに一つ、仕事を頼みたいんだ。報酬はその金貨袋。足りなければ追加する」
男の言葉に、アデルは息を飲みこんだ。
「君の絵を見た。きっと、君にしか頼めない」
長身の男から受け取った金貨袋には、医者へのたまった薬代、アントンからの借用金を返してなお、一年間は暮らせるだけの金貨が入っていた。
「なんのお仕事かは分かりませんが、こんなに頂くことはできません」
「おかしな修復をされた天使像を、元通りに修復して欲しい」
マスクで顔は隠れていたが、話し方や声の状況からアデルは男が本気で依頼していることを悟った。
出来るかは分からないけれど、美しい天使像に戻そうとアデルは決意した。
アデルに修復を依頼した男は、足早に教会に戻った。
夜も更けていたため、さすがに人だかりは無くなっている。
教会に入ると、ニコニコしたアルンが朗らかにおかえり、と迎える。
「遅かったね、セラフィ。アデルの所に行ってたの? そんな変なマスクなんてつけちゃって」
アルンの言葉にセラフィはワナワナと肩を震わせた。
「誰のせいだと思ってるんだ! 誰の! おまえ、いたずらもいい加減にしろよ!」
セラフィに怒鳴りつけられて、アルンはひょいと肩を竦めた。
「その、変なマスク取ったら? 神様の前でマスクをしているって、失礼でしょ?」
言われるままにマスクを外すと、アルンは笑い出した。
「ほらぁ、こっちのほうが絶対良いって! みんなも笑っていたじゃない?」
笑うアルンに再び怒りを堪えるセラフィ。
セラフィの顔は白塗り、目はまん丸に見開き、唇は紅を指したように赤く、分厚くなっていた。
「アハハハ。何度見ても面白いね、セラフィ。天使像を塗ると本体まで、塗ったように変わっちゃうんだね。大発見だったなぁ」
「このイタズラ坊主っ!」
アルンの首根っこを捕まえようとしたセラフィにアルンが無邪気に尋ねる。
「セラフィ? 天使にも階級あるよね? ボクと君、どちらが上だった?」
「……。」
黙り込んだセラフィに、アルンは満面の笑みを浮かべた。
「……だよね?」
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