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13年前。
五月雨が降るある日、奏音がこう言った。
『私、死にたい』
奏音とは、中学生に1年生の夏に交際を初めて、現在付き合ってから2年が経とうとしていた。
そんな梅雨の日の出来事。
今日は休日だったので、いつも通り僕は朝から晩まで奏音と遊んでいた。
友達のようにゲームをしたり、雑談を交わしたり、性的な行為を行ったりしていた。
そんな彼女が、帰り際、彼女の家の前で
『死にたい』
そう呟いた。
僕は困惑する。
直ぐに返事をすることが出来なかったので、奏音がもう一度、瞳に涙を浮かべ
『死にたいの』
と今度はしっかり顔を見て言った。
少しの沈黙の後、僕は彼女を否定した。
『死ぬな』『生きろ』『僕がいるじゃないか』
そう、彼女の事を否定してしまった。
彼女の苦悩を、知りもしない僕が、彼女を否定してしまった。
僕も冷静にいられなかったんだ。
頭が、おかしくなってしまっていたんだ。
だけど、奏音は僕がどれだけ否定しても、優しく、僕を肯定してくれた。
『そうだよね』『死にたいなんて、間違いだよね』
って。そう肯定してくれた。
僕は、呑気に嬉しい気持ちになっていた。
勝手に、奏音を救えたと思っていた。
だけど、僕が彼女を否定したばかりに、彼女は最悪の道を選んでしまった。
彼女が死んだのは僕のせいだ。
僕が、あの時、肯定の言葉を投げかけてあげれば、もし、強く抱き締めたあげたら、もし、『一緒に死のう』と言ってあげれたのならば、彼女は、奏音は、どれだけ救われたんだろう。
その日、奏音は笑顔で
『またね』『大好き』
と言ってくれた。
僕も、呑気に
『大好き』
と言い、その日は奏音と別れた。
帰ろうと思い、傘を差す。
最近は毎日雨が降っている。
僕は梅雨が嫌いだ。
雨の匂いが嫌いだから。
傘を差し、自分の家へと向かう。
風も強く、傘が何度か飛ばされそうになりながら、家に着いた。
その日、奏音と連絡が取れなかった。
僕たちは、ほとんど毎日寝る前は通話を繋げていた。
僕は、ただ寝ているだけだと自分を納得させ、LINEで『おやすみ』『だいすき』と二言、ミュートメッセージを送り、その日は寝た。
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