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選ばれた男
自分は、確かに「祝福の子」と呼ばれて生きてきた。
だが、それは間違いだったのだ。
多くの生徒に囲まれる、まるで状況を理解できていない様子の男子生徒。
自分が手本として見せた魔法を、その場で瞬時に真似てみせた天才。
それでなお、彼は「特別なことはしていない」と苦笑う。
「……特別、ではない」
自分は、確かに「選ばれた子」だと言われてきた。
だが、それは見当違いな言葉だ。
アレが、彼らの言う「本物」なのだ。
頭の中で囁く黒い塊は、自分が「偽物」なのだと思わされるようだった。
◇
自分が魔法を始めたのは、産まれて三つ目の年の誕生日だった。
建国から三代目の王の息子として生まれた時から、後の「王」として育てられる。
産まれて間もなく、赤子の自分は聖女に「魔法の才」を告げられたのがはじまりだ。
「このお方は、将来その才を以て、国の大いなる運命を切り開くでしょう」
神秘の白に身を包む聖女は、煌めく透明のまつ毛を伏せて告げる。まだ赤子の自分は、なにごとかを理解できないまま微笑んでいたという。
「ですが、その道に至るための試練もまた、このお方の大いなる運命を揺るがすでしょう」
淡々と告げられる言葉に、王や貴族達はもちろん、特に母が酷く取り乱したらしい。
「三つ目の誕生日。また私のもとへ連れて参りなさい。このお方の一つ目の試練は、才への目覚めです」
魔法の発現は、生きていれば気付かぬうちに成されているものだ。だが、自分の場合はその「種」が逆子のようにひっくり返り、いつか身体を蝕んでしまうそうだ。
三つの年。「記憶」することを覚えたばかりの幼子の自分は、畏怖という白を光放つ聖女にただ震えて背筋を伸ばしていた。
「あなたのためなの。大丈夫、できるわ」
そう強く抱く母に、縋るように泣きじゃくろうと伸ばした手を、聖女に引かれてしまう。
「堪えなさい。これは、貴方を「王」とする為の試練なのです」
聖女に手を引かれた先で、暗がりの部屋の中。そう言い残して、自分の「種」の発芽が始まった。
どれほどの年月を過ぎようとも忘れることのない激痛が、人生初めての試練である。
「五つ目の誕生日。東にある最奥の山へお連れなさい。母なる大地の女神が、このお方に神託を下さるでしょう」
魔法の才が目覚めてから、多くの属性魔法を扱えるように訓練を初めてすぐ。五つ目の誕生日に、最も尊ばれる女神の神殿へと連れられ、神託が下るまで祈りを捧げ続けた。
高くそびえる女神像は、山の最奥にある大きな神殿におり、ただ一人、灯りのない中で祈る。何も分からぬ自分は、ただその「神託」とやらが来るのを切に願って、三日間ただ祈った。
〈ーー献身なるそなたよ。その忠誠に報い、祝福を授けましょう〉
丸めて痛む身体の奥まで響く声に、ああ、やっと終わるのだと。そのまま気を失った。
どんな神託をされたかは、今でも思い出せない。
「七つ目の誕生日。西の海を越えた先にある、魔導の国へお連れなさい。その国を治める【慟哭の姫君】が、このお方に知恵を授けるでしょう」
神託を受けてから更に高度となった訓練に慣れた頃。今度は海を越えた先にある、魔導の全ての始まりと言われる国へ足を運んだ。
「……思ったよりも、お前は厄介な祝福の子に産まれたね」
国を興して約数千年、絶えることなく王の座に座るという君主【慟哭の姫君】は、対面した一言目にそう言った。質素な玉座に座り、大柄な男よりも高い背を丸めながら微笑む彼女は、出会った誰よりも慈愛に満ちていた。
「聖女に「魔法の才」を見出され、女神より神託を受けた王子か……」
聖女とは反対の、濃紺の装束に裸足で、闇を垂らしたような瞳。それが、自分をまるで可哀そうなモノでも見ているようで、どうしようもなく泣きたくなった。
「十年だ。この子を預かろう」
彼女はそう言って、本当に十年間、自分に魔法の何たるかを叩き込んだ。国の主としての在り方や教養、武術のことまで教えてくれた彼女を、いつしか「師」と呼ぶようになった。
「いいかい、よくお聞き。我が弟子よ」
師に預けられて十年。国に帰ることが決められていた日の朝、師は変わらぬ笑みで、真剣に見つめる。
「お前はもう、私の次に優秀な魔法士だ。断言しよう。たったの十年で、私の数百年の道を歩み切ったのだから、間違いない」
嬉しかった。
尊敬し、敬愛する彼女からそのように言われて、隠せないほどに心が舞い踊っていた。
「これも全て、御師様の教えがあってこそです」
「……本当に、誇らしいよ」
そう頭を撫でる温かな手に、胸が熱い。初めて師の出した課題に成功して以来の祝福に、涙を堪えられなかったのが忘れられない。
「……だが、お前の人生は始まるのだよ。今日、この日から」
頭に手を置かれたまま、硬くなる声に背筋を伸ばした。
その時、彼女の目に初めて、悲痛な揺れが映っていた。
「我が弟子よ。この先、お前に更なる壁が立ちはだかるだろう。その壁は、きっと、お前の心を砕く。だが、忘れるな。お前には、私がいる」
そう言って、師は手を自分の胸に触れた。まるで、師がそこにいるかのような心強さだ。
「必ず、その壁をも乗り越えて、更なる成長を遂げて見せます!」
そう彼女に誓った時。彼女は、自分がどう見えていただろう。
「よくぞ戻られましたね、王子。これで貴方は、この国を背負うに相応しいお方となったことでしょう」
十七となり、聖女に告げられた自分。後は、進むべき道を行けと言われ、自分は随分と遅れて、自国にある魔法学園に編入した。
「素晴らしい! 流石、聖女様に魔法の才を見出されたお方!」
編入試験で行われた実技では、動かぬ的と飛び回る物体に向けて、より高度な魔法を放つという分かりやすいもの。師より教わった基本的なものから段階的に分けて放ったそれは、全て命中した。
魔力の減りもほとんどなく、汗一つだってかかない。
「いえ、自分はまだ未熟です。この国を背負う者として、更なる学びと成長を積み上げたい。先生、なにとぞよろしくお願いします」
慢心してはいけない。師はいつだって、誰に対しても誠実であった。民を愛し、民に愛され、国を背負う手本であった。
自分は、あのお方のような立派な王になるのだ。
そう。そう決意して、短くとも貴重である学園生活を送ってきた。
学年が上がり、多くの生徒たちから慕われるようになれた時。同い年で、同学年として編入してきた生徒がいた。
生徒や先生方からの噂によれば、編入試験を異例の点数で合格した「天才」なのだとか。
「は、初めましてっ! ひ、東の山の麓にある村から来ました! あの、怪しい者ではないので、どうぞよろしくおねがしますぅ!」
自己紹介の時に緊張からか、ひどく取り乱していた彼はそう言い終わってから、まるでこの世の終わりだという顔で席に座った。教室に入って来た時は、まるで後光がさすような錯覚を覚えた気がしたが、気のせいだったようだ。
「初めまして。そなた、編入生だろう? 自分も去年編入したのだ。短い間だが、良き友としてよろしく頼む」
周囲から遠巻きにされていた彼は、話しかけてきた自分に随分と驚いていた様子で握手をしてくれた。生まれは田舎の方らしい彼にとって、学園は慣れないものばかりだろう。そう思って、自分から案内を買って出たのだ。
「え!? お、王子様なのッ、ですか?」
「無理に接さずとも良い。今は皆と同じ学徒としてここにいるのだから」
「そ、そう? よかったぁ。スゴク失礼な話し方してたから、肝が冷えたよ……!」
「ふむ。まぁ、最初から接するのが難しいのは理解している。慣れてくれればそれで好い」
話してみれば、少し若気のある普通の好青年であった。魔法に関してはあまり、というより「無い」に等しい知識ではあったが、元々勉学はできるらしいので、努力すればすぐに身に付くだろうと励ましてみる。
素直に話を聞き、他者に対する接し方も温和な彼は、きっとすぐに学園にもなじめるだろうと、安心していた。
実技の授業に、それは覆されたのだ。
◇
高学年の実技ともなれば、初心者から見ればどれも高難易度なものばかり。正直に言って。魔法の知識が皆無であろう彼には、あまりにも酷ではないかと心配しながら、先生の進言もあって自分がサポートに回ることに。
「えと、よろしく! ね!」
「あぁ。分からないことは遠慮せず聞くのだぞ」
「う、うん!」
緊張して何度も深呼吸する彼に、一つ手本を見せてみようと思ったのが分かれ道だったのだろう。
「自分が一度、アレの的を撃ちぬく。見て覚えた方が、そなたにとっても早く覚えられるだろう」
「いいの? えと、じゃあおねがいします!」
「敬語はよい。まぁ、任せておけ」
キラリと輝く瞳に、引き締めていた口角が緩まりそうになるのを堪えながら、一つの的の前に立つ。
「呪文を唱えた方が、分かりやすいか」
普段は無言呪文だが、まだ歴として浅い彼にも分かりやすく見せるために呪文を唱えた。
「"精霊よ、良き隣人よ。我が声を聞き届け、我が頼みに応えたまえ″」
杖を構え、久しく口にはしていなかった言葉を唱える。どんどんと炎が杖の先に集まり、火球のような形へとなる。
そして一つ、短く息を吸って力んだ。
「“ファイア・ショット”!」
杖の先から勢いよく伸びた火の一閃が、まっすぐに的を「ドンッ!」と貫通する。
「すごいわ、王子!」
「あんなにも綺麗な線、私じゃ無理だもの!」
「狙いも的確だよなぁ! ど真ん中だ!」
「というか、的の後ろにある壁まで貫通してるぞ!」
周囲からいつの間にか注目されていたらしく、クラスメイト達から賛辞を受けてしまう。彼に手本を見せるはずだったのだが。
「す、すごいね! あれ、もしかして手加減したの?」
彼が喜々とした様子でこちらに駆け寄ると、開口一番にそう聞かれた。確かに手加減はしたが、わざわざ聞くことだろうか。
「ん? あぁ、あくまで手本であるからな。呪文も普段はしない。あった方が覚えやすいだろう?」
「う、うん! スゴイ見やすかった! ね、ボクもやってみていい?」
「うむ。挑戦して覚えるのが一番鍛錬になる。では、同じように構えよ」
先ほどと同じ構えをすると、彼も興奮気味に真似をする。編入試験でとんでもない点数を取ったという噂が、まるで嘘のように無邪気だ。
「あの、呪文って言わないとダメ、かな?」
「む? ふむ……最初の内は安定を重視して唱えるのが一般だが、試しに想像だけでやってみるか?」
「うん! 頑張る!」
そう意気込むと、彼は目を力強く閉じ、顔にいっぱいのシワを作る。一生懸命に想像しているのだろう彼の健気な姿に、こちらも気合が入る。
「ねぇ、彼、無言呪文でやるつもりかしら?」
「え、無理でしょう? 生徒でできるの、王子くらいよ?」
「先生の中でだって、練習してやっと三分の一くらいだ」
「大丈夫かしら……暴発しないといいけれど」
「王子に何かあったら……」
ヒソヒソと囁く彼らに苦笑いして、自分も集中する。確かに、無理に無言呪文をしようとすると暴発して怪我に繋がることもあるが、そうなる前に止めれば問題ない。
そう考えて、彼に準備ができたかを聞く。
「よいか?」
「……うん! バッチリ!」
「よし。では……!」
彼の返事に頷いて、合図を出す。
杖の先に集まった炎を勢いよく打ち出した。
今回の魔法も勢いよく的を貫通したのを確認して、ちらりと隣の彼を見た。
「……なッ」
彼の杖の先には、自分の顔ほどか、それ以上に大きな火球が出来上がっていた。彼は集中しているのか、はたまたこれが普通だと思っているのか。変わらず真剣な表情で的を睨む。
「……ッぅおぉりゃぁあ!」
突然そう叫んだかと思えば、その火球は分厚い光線のようになって、的を貫通どころか後ろの壁ごと「破壊」してしまった。
「わ! あれ、なんか、想像してたのと違う……?」
静寂に包まれた実技上で、一瞬歓喜の声を上げた彼は、すぐに高威力な魔法で消し飛ばしたのに気付いて困惑していた。
「そ、そなた。呪文は唱えておらぬよな?」
「え? う、うん。あ、も、もしかして、呪文唱えなかったから、暴発しちゃったのかな!? ど、どうしよう!」
「あ、いや。魔法自体は暴発ではないが……」
「そうなの? でも、なんでキミとは違うんだろう?」
不思議そうに首を傾げる彼は、杖を凝視して、何度か降ったりを繰り返す。原因は杖ではない。これは……
「す、すごぉい!」
不意に、離れた所から女生徒の声が響いた。
「編入生君、今の魔法スゴイ威力だったね!?」
「ホントだよ! 学園の前に誰かから魔法教わったの?」
「というか、命中精度も高いな! ど真ん中というより、全部壊しちゃったけど!」
「しかも無言呪文とか、ありえないよ! どうやったの?」
一つの歓声を皮切りに、クラスメイト達が彼を一斉に取り囲んだ。
「そ、そんな! ボクはただ、王子のお手本を真似しただけで……!」
「真似だけであんなんならないって!」
「編入試験の噂もそうだけど、貴方「天才」なんじゃない!?」
彼らの喧騒が、近いはずなのに、どこか遠くに感じた。
皆は気づいていなかったが、自分はある「既視感」を覚えた。
「……あの魔力は、女神の」
間違いなかった。間違えるはずがない。
幼い時、聖女に才能の「種」を発芽された時。
三日間、空腹と孤独の末に与えられた女神の「神託」の時。
自分に役目を与えられた感謝を捧げるために、それこそ、産まれた時から女神に祈り続けた毎日。
それを感じない日など、一度だってなかった。
「アナタ、もしかして親戚に聖職者でもいるの?」
「女神さまにお祈りは?」
「い、いいえ! ボクは、ただのしがない牛飼いの息子でして! お祈りも、週に一度ある日にしか行きませんし……!」
「女神の加護無しでこれなの!?」
「すごいな! 本当に天才なんじゃねぇの?」
「いやいや! そんなそんな!」
いいや。彼は確かに女神の「祝福」を受けている。実際に受けている自分にはわかる。彼のそれは、確かに女神に愛されたものだ。
女神に、愛されて……
「……女神の、寵愛……」
賑わう彼らの耳に届かない無意識の呟きが、自分の口から漏れ出た。咄嗟に口を抑えながら、再び彼に視線を向ける。
なぜだろう。冷や汗が止まらない。
彼のそれは、本当にそうなのか。
本当に?
ならば、何故出会った時に気付かなかった。見逃すはずもない。あれほどの光を放つ者など、この世で見たことがない。
「スゲェな! な、今度俺と一緒に練習しない?」
「あ! ズルい! 私も私も!」
その光に集まるように、クラスメイト達の好奇な質問も止まらない。
確かに威力も精度も凄かったが、先生方や自分の魔法で見慣れているはずの彼らが、ここまで興奮するモノだろうか。彼が初心者同然だと思っていたからだろうか?
いいや、だとしてもこの盛り上がり方は……
まさか、そうなのか。
「……そなたは、なにに選ばれた」
気付けば、身体が勝手に彼に近付いていた。視界が狭まるような感覚を無視して、とにかく平静を保って尋ねる。
彼は、質問攻めにあって少し汗を垂らしながらも、またも不思議そうに首を傾げた。
「え? なんのこと?」
本当に分からないようで、彼はまた皆の質問攻めに飲まれていった。
「……いいや、なんでもない」
聞こえないだろう返答をして、少し後ずさりをする。彼らの邪魔にならないように、ひっそりとその場から走って逃げだした自分は、途中の廊下で蹲った。
女神の「恩寵」。それに惹かれる彼ら。純粋で、皆から愛されるような彼。
ああ、そうか。
「……そなたが、選ばれた男か」
そなたが、自分の心を砕く「壁」か。
自分は、そなたという壁を越えねばならないのか。
「……できる、とも」
そのために自分は、今日まで鍛錬を積んできた。一国の王となる為に産まれ、民を導く良き王として生きて。あの人のように、皆を愛し、皆から愛される王となる為に。
「なって、みせるとも」
なぜこんなにも焦る。なぜこれほどまでに汗が流れる。
なにを、それほどまでに、恐れている。
「はぁ、はぁ……恐ろしい、のか」
つい、自分の言葉に乾いた笑いがこぼれる。彼の何が恐ろしいのだ?
あんなにも素直で、健気で、皆から愛されるような、普通の好青年である彼に。一体、なんの心配があるのだというのだ。
女神の「恩寵」は、確かに自分よりも強いだろう。だが、それがなんだというのだ。これまで通り、鍛錬を積み、研鑽を重ね、己を磨き続ければいい。なんの難しいことではない。
なんの、「負ける」ことなど……
「……は」
今、自分はいま、なにを考えた。
「負ける」? 負けるとはなんだ。これは勝ち負けではない。そんな、単純な話ではない。
いや違う。違う違う。自分はなにを考えている。
自分が目指すのは、尊敬する人のような「王」だ。
それを、勝ち負けなどと……!
「あ! いたいた! おーい!」
後ろから、彼が走ってくる気配がした。自分を見つけて、声までかけて。
「急にいなくなるからビックリしたよぉ! なんかみんな、スゴイ勢いだったから逃げてきちゃった……あれ? 大丈夫?」
少し息を乱して駆け寄る彼は、自分の顔を覗き見て聞いた。
「な、なにが、だ」
「なにって……蹲ってるのもそうだし、顔色も悪いし……どこか痛む? 保健室行く?」
心配そうに自分を見つめる彼。自分に合わせて、同じように屈みながら首を傾げる彼を見て、身体が震えた。
「……いや、問題ない。少し、軽く眩暈がしたのだ」
そう言って、何気ないように立ち上がる。何度か呼吸を整えて、彼に手を伸ばした。
「すまんな。教室に戻ろう、皆が待っている」
「! うん!」
明るく、いっそ眩しいほどの笑顔で手を握る彼。
ダメだ。これでは、自分の心が「焼かれる」。
嫌に早い心臓の鼓動が、彼の太陽に焦がされてしまう。
「あのさ!」
「ん、なんだ」
先を歩いていたのを引き留められて、振り向いた。
彼は、花がほころぶような笑みを浮かべて言う。
「その、キミのこと、親友って……呼んでもいいかな?」
彼の申し出に、下唇を噛む。
そなたは、自分に、親友を名乗れと言うのか。
自分が越えるべき、そなたという「太陽」に。
「……構わんよ。好きにするが良い」
なんとか、平静は保てているだろうか。
「ホント!? 嬉しいなぁ。ボク、あんまり友達いないから。憧れてたんだぁ、親友って!」
「そうか……」
楽し気に笑う彼の弾む言葉に、自分がどんどんと穢れていく気がした。
彼は、こんなにも純粋に、自分を「親友」だというのに。自分は、ずっと「自分」のことしか考えていない。
これが、自分の目指す「王」の姿か?
皆を愛し、皆に愛され、皆を導く「王」の姿なのか?
いいや、違う。
こんなもの、王ではない。
師よ。世界で誰よりも敬愛するアナタ。
「私」は、本当に、アナタの誇りになれているでしょうか。
アナタがいるはずの胸が、どうしてこうも、苦しいのでしょうか。
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