あけてはいけない

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 私はしばらく肩を抱きながら、ベッドにもたれて鞄そのものに意識を取られていた。 (それでも、ずっと部屋に隠し持っていても、いつか誰かの証言で警察は私の部屋に踏み込んできて、これを発見するかもしれない)  そしたら、こうなるだろう。 (私は仕事に出られなくなり、それどころか独り身の女性がやらかしたセンセーショナルな殺人容疑及び死体損壊の罪でマスコミが大騒ぎするにちがいない)  そんなことになったら、たとえ声高に冤罪と訴えても、もう表には歩けない。  たとえ嫌疑不十分で自宅に帰って来られても、真犯人がつかまらなかったら、周囲の目は私を疑ってくるにちがいない。  あいつもテレビ局の取材インタビューでしゃあしゃあと言ってのけるだろう。 ”以前交際していた男性”というテロップが出てモザイクや音声を変えられて 「彼女は、そんなふうには見えなかったです。まさかそういう面があったとは僕も驚いています。ちょっと怒ると手がつけられないときはありましたが……」 なんて言葉の威力を知らないばかりに、余計に私が怪しまれる物言いをするにちがいない。 (一番ましな方法は何だろう)  アルコールの消し飛んだ頭の中で、私はしきりに考える。  ここでとりあえずコンビニに行って追い酒を口にして誤魔化せるほど、私はちゃらんぽらんな人間ではない。  ビジネスに限らず問題の先延ばしは、事を深刻化させる。  鞄を封して、どこかに捨てにいくしかないのかもしれないが、遠くまで運ぶのは女手には重すぎる。  しかも夜中にそんな思いして運んでいる姿を通行人に見られて証言されたら、なおさら犯行を裏付けるものとして扱われるにちがいない。  元どおりに部屋の前に置いておいて、第一発見者が自分でないように見せかけるのが、一番自然な気がする。  外に出しているところを両隣の住人に見られなかったら、私への疑いを少なくとも減じることはできるだろう。  気色悪いが、私は意を決して膝をついたまま鞄に近づいた。  明日からの平穏な日常のためだ。そのためにこれはやり切っておかねばならない。  こんなきっぱりとした自立心が尖り過ぎていて、あいつには守ってあげたくなる女性として見た場合、物足りなかったのかもしれないな。  ふとそう思った。 (30も過ぎたら、それくらいの危機意識はあるよ、バカたれ!)  私は目をいからせると、憤然と立ち上がった。  
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